地域の特殊事情が考慮されていない地方交付税交付金制度

地域の特殊事情が考慮されていない地方交付税交付金制度

政令指定都市の一つである京都市の財政状況が悪化しているらしい。

このままのペースで悪化が続くと、10年後には総務省から「財政再生団体」に指定される可能性があるという。

財政再生団体とは、法律に基づいて「財政再生計画」を策定させられる地方自治体のことです。

計画を策定させられるとともに、行政運営上、様々な制約が課せられます。

因みに、これまで指定されたことのある自治体は、かの有名な北海道の夕張市だけです。

京都市の財政を悪化させている主因は、歳出面では採算の合わない市営地下鉄への赤字補填です。

一方、歳入面では、川崎市や京都市などの政令指定都市の主たる市税収入は「固定資産税」と「市民税(住民税)」なのですが、京都市の場合、固定資産税や住民税からの税収が他の政令指定都市のようには見込めない特殊事情があります。

固定資産税は企業や家計の土地や建物に課せられる税ですが、ご承知のとおり京都は神社仏閣が多く、それらへの固定資産税は非課税です。

また、景観保護に厳しい京都では高さ規制により固定資産税が見込める高層マンションが少ない。

“古都”という側面が税収の増えない要因になっており、武蔵小杉のようなタワーマンション群のある川崎市のようにはいかないのでございます。

さらには、人口のおよそ1割に相当する約15万人が大学生という京都市では、住民税を納める人の割合は約43%しかおらず、これは政令指定都市では最低水準です。

コロナ禍が終息すれば観光客が増えることも見込まれますが、例えそうだとして財政改善への影響はそれほど大きくありません

京都に来た観光客が例えばお土産を買うと、そのお店の売上と従業員の給与の上昇圧力になるのは確かですが、そこから揚がる税収増は限定的で財政危機の事態が改善されるわけではありません。

地方自治体は総務省の指導に従い、発行した地方債を償還するために基金(減債基金)を積み立てています。

積立金とはいうものの、地方債の償還に支障を来さなければ、私は一部を取り崩して臨機応変に活用することがあっていいと思っています。

現に、川崎市もそうしています。

これを家計簿的に考えてしまうと「将来のためのおカネに手をつけるのはけしからん…」となりますが、いつも言うように行財政は家計簿ではありません。

例えば地方債の一部は借り換えの連続であって、与信的制約に縛られている家計の借金とは全く異なるのです。

ところが京都市の場合、このままでは減債基金が2026年度の段階で底をつくのだとか…

むろん、それで京都市がデフォルト(債務不履行)することはないのですが、このままではさすがに総務省から「財政再生団体」に指定されてしまう可能性はあります。

財政再生団体に指定されると、夕張市のように地方債発行に制限がつけられるなど様々な財政制約が課せられるのと同時に、下水道料金の値上げやゴミ処理の有料化など市民サービスを大幅に削減するなどして財政収支の縮小均衡を徹底するように迫られます。

ただ、財政再生団体に指定されずとも、既に京都市では厳しい行財政改革(緊縮財政)がはじまっています。

昨年6月に京都市がまとめた行財政改革案によれば、2025年度までに1600億円の収支改善を目指すとしています。

改革案には、毎度お馴染みの「聖域なく不断の見直しを行う」ことが明記され、5年間で市の職員を550人削減(給与もカット)し、高齢者が一部の負担でバスや地下鉄に乗車できる「敬老パス」の見直しなど、市民サービスの大幅な削減も盛り込まれています。

とりわけ不安が広がっているのが子育て世代への影響のようです。

京都市では保育所の国基準(一歳児6人に対して保育士1人)に対し、京都市独自の補助金(年間予算:60億円)で配置基準を5対1にして保育水準を手厚くしてきました。

むろん、この60億円の補助金も見直しの対象となっていましたが、その後どうなったでしょうか。

見直されれば保育士さんたちの給与が下がることは必定で、保育料の値上げにもつながったものと思われます。

「このまま京都市に住んでいていいのか…」という不安感が市民に蔓延してのことか、京都市では昨年から転入よりも転出が1000人以上も上回る転出超過に陥っているらしい。

しかも都市内の住宅が、中国の富裕層に別荘として購入されるケースが増えているという。

その人気ゆえに、京都市内の住宅価格が高騰しており、家を持ちたい子育て世代が市外へ流出する一因と指摘されています。

そこで京都市は「空き家」「別荘」「セカンドハウス」といった居住者のいない住宅に対して新たな負担を求める“別荘税”の導入を検討しているようです。

それでも、そこから揚がる税収は8〜20億円程度だそうです。

こうなってくると、「これよりもあれの方が無駄だ」「あれよりもこれの方が無駄だ」「これよりもあの事業を廃止しろ」という不毛な市民分断がはじまっていきます。

まさに負のスパイラルです。

こうした事態にならないように、本来は『地方交付税交付金制度』があるはずです。

京都市に古都という特殊事情があるのであれば、それによって損なっている財源をしっかり政府が地方交付税交付金により補填してあげるべきです。

そうした補填があるにも拘らず構造的に巨額の赤字が膨らんでいくようであれば話は別ですが、特殊事情が全く考慮されていない制度のなかで、日本国民たる京都市民の生活を破壊するような「抜本的改革」を求めるべきではない。