新型コロナを「5類」にできない理由

新型コロナを「5類」にできない理由

なぜ新型コロナを「5類」に引下げられないのか?

そんな疑問をお持ちの方が多いようです。

ご承知のとおり感染症法は、重症化リスクや感染力に応じて感染症を「1類」から「5類」に分類しているわけですが、「ここにきてワクチン接種も進んでいるし、死亡リスクも軽減されているんだから、このあたりで2類の新型コロナをインフルエンザと同じ5類にしてもいいのでは…」というご意見が多いようです。

ここでまず大きな誤解があります。

新型コロナは「2類」ではない。

2類に相当する対応をしているだけです。

新型コロナは未知のウイルスであったため、とりあえず2類に相当する扱いをしてきたに過ぎないのでございます。

あくまでも「相当」なので、2類と全く対応では同じではありません。

例えば2類に分類されている感染症は「結核」や「SARS」ですが、これらは…

①医療費の公費負担

②入院勧告

③就業制限

…の対象になっています。

一方、2類相当扱いの新型コロナは①②③に加え、④外出要請、⑤無症状への適用も含まれています。

因みに「1類」のエボラやペストは、①③④⑤が適応されるものの②は適応外ですので、その意味で新型コロナは「1類」よりも厳しい対応をしてきたわけです。

それに対して、5類に分類されているインフルエンザは、①②③④⑤すべてにおいて適応外です。

インフルエンザの場合、例えば①医療費の公費負担がないのは、よく知られているところです。

5類のインフルエンザに感染した場合の治療費は健康保険が適応される部分を除けば自己負担であり、ワクチン接種についても100%自己負担となります。

では、新型コロナ感染症をインフルエンザと同じ「5類」に相当するとしたらどうなるでしょうか。

無論、医療費の公費負担はなくなります。

そこで、新型コロナに感染し、病院で診療を受け治療薬を処方されたとしましょう。

いま最も効くとされる米国MSD社のモルヌピラビルの治療代は、五日間の服用でひとり約10万円です。(モルヌピラビルの場合、五日間の服用は必須)

新型コロナの治療薬は、インフルエンザの治療薬とは異なって未だまだ薬価がお高いのです。

むろん健康保険が適用されますが、それでも自己負担は約3万円です。

新型コロナは家庭内でも感染することから、もしも4人家族の全員が感染し重症化してしまうと、それだけで10万円以上の治療費を自己負担しなければなりません。

「だったら医療費の公費負担だけを残して、他は5類と同じにすればいいじゃないか…」と思われる方もおられるでしょう。

確かにワクチン接種の普及により重症化率は低減されてきたものの、高齢者(60歳以上)の重症化率はインフルエンザに比べて未だまだ高い。

このような状況のなかで、もしも「5類相当」にしてしまうと、現役世代の感染拡大が高齢者への感染拡大と重症化につながる可能性が高まります。

そのことが、多くの専門家たちが抱く共通の懸念のようです。

なにせ新型コロナウイルスの株は、アルファ、データ、ガンマ、デルタ、オミクロン、とその変異スピードは実に早い。

徐々に弱毒化しているとはいえ、新たな変異株がどれほどの脅威になるのかの予測は難しい。

次なる変異株が、絶対に弱毒化される保証などないのでございます。

これだけ世界中の人々が感染しているわけですから、それに比例して変異の回数もバリエーションも多くなるのは私のような素人でもわかります。

ましてや、この冬はインフルエンザが猛威を振るう可能性が高くなっています。

万が一、年末に新型コロナ感染の新たな波(第8派)が発生し、さらにはその重症化率も高い、となった場合、現在の法律の枠組みを維持しておけば、なんとか運用面で柔軟に対応することが可能です。

もしも法律を変え新型コロナを正式に「5類」に分類してしまうと、上記のような万が一の事態の際、再び法律を戻す必要に迫られます。

国会審議をみても解るように、法改正にはものすごい政治的パワーと時間を要します。

危機に際しては、そんな時間も余裕もない。

新型コロナを「5類」に分類できないのは、こうした複雑な理由と背景があってのことです。

ゆえに、新型コロナで被っている経済的打撃については、経済財政政策(積極財政)で対応するしかないのでございます。