コロナワクチンを日本が開発できなかった理由

コロナワクチンを日本が開発できなかった理由

つい最近まで「感染最悪国」だった米国が、いまやワクチン接種を加速化させ世界に先駆けて経済を回復させています。

IMFやOECDの経済予測をみても、米国経済の成長期待が高まっていることが伺えます。

感染最悪国だった米国を一変させたのは、紛れもなくオペレーション・ワープ・スピード(以下、OWS)でしょう。

OWSとは、トランプ前政権時に掲げられた「新型コロナワクチン開発加速計画」のことで、SFドラマ『スタートレック』にでてくる「超高速航法」が言葉の由来となっているようです。

ワクチンを開発し、治験を得て承認され、そして生産して配布・接種に至るまでには、通常73ヶ月(約6年)を要します。

ところが米国はOWSによって、これを14ヶ月に短縮させました。

実に驚異的な速さです。

そして接種を迅速に進め、他の先進諸国に先駆けて経済回復を実現しています。

では、OWSの具体的手法をみてみましょう。

まず複数のプロジェクトを同時に進行し、最も有力な2件に対して開発途中から治験を開始する。

また、事前に3万人のボランティアを集めておき早期承認のためのデータを積み上げる。

そしてここが凄いところですが、なんと治験の最中に生産を開始します。

要するに堂々たる「見切り発車」です。

当然のことながら、ワクチンが完成する前から「配布と接種」の準備もはじめます。

米国は、これらすべてを実行したわけです。

このOWSには、以下の企業グループが参加しました。

ジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカ&オックスフォード大、モデルナ、Novavax、メルク IAVI、Sanofi/グラクソ・スミスクライン

米国政府はこれらの企業に対し、合わせて約75億ドル(約8,300億円)の公的資金を投入しています。

有事とあらば、例え外国の企業であっても公的資金を投じるあたりがまた凄い。

こうしたOWSにより、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカ、モデルナの3社が見事にワクチン開発に成功したのは周知の事実です。

ここにファイザー社が入っていないのは、「うちは政府のカネなんかいらない!」と言えるぐらいにファイザー社はワクチン業界では超先進的企業であったがために当初は公的資金を必要としていませんでした。

なんとファーザー社は、去年の秋ごろ承認前に既にワクチンをほぼ完成していました。

そこで米国政府が「ファイザー社のワクチンを1億回分(5,000万人分=約20億ドル分)買い取ります」と表明したことから、結果的にファイザー社(+ビオンテック)もOWSに入ることになりました。

米国政府がワクチンに関して複数の選択肢を持てるようになったのはこうした経緯からです。

また、OWSが成功したもうひとつの背景には、国防省の存在があります。

OWSには当然のことながら複数の省庁が関わります。

疾病対策センター(CDC)、食品医薬品局(FDA)、国立衛生研究所(NIH)、生物医学先端研究開発局(BARDA)、保険福祉局(HHS)などです。

縦割りの弊害はどこの国でもありますが、ここに横串を入れて統括したのが国防総省(ペンタゴン)です。

その最高執行責任者(COO)になったのは米軍のギュスターブ・ペルナ陸軍大将です。

日本では「えっ、軍人がトップなの!」と、かなりの抵抗感を感じる人もおられるかもしれませんが、CDCやNIHやBARDAには元軍人がたくさん所属しており、そもそもバイオテロ等への備えについては軍隊が所管するところですのでアメリカ国民からしてみれば違和感はないはずです。

因みに、ペルナ陸軍大将はロジスティクス(兵站)の専門家です。

ワクチン供給、接種会場の設置、人員配置はまさにロジスティックスの問題ですので、その意味でも適任者なのでしょう。

さて、問題の「なぜ日本ではコロナワクチンの開発ができなかったのか?」です。

米国のOWSをみればよく理解できます。

収支均衡主義の政府がワクチン開発に公的資金を出さないこともさることながら、そもそも治験に協力する国民の数が圧倒的に少ない。

これでは日本でのOWSなど到底不可能です。