農産物の貿易自由化は食料安保の敵だ!

農産物の貿易自由化は食料安保の敵だ!

今から16年前の2008年、世界は深刻な食料危機に見舞われました。

穀物価格が高騰したことで、とりわけ食料を輸入に頼っていた貧困国では食料が買えなくなり餓死者も出ました。

国によっては暴動が起きたところもあります。

2008年に食料危機に至ったのは、なにより農産物の「貿易自由化」が根源にあります。

例えば貿易自由化を主導した米国は最もずる賢かった。

米国は自国の農業に対しては輸出補助金などで手厚く保護しておきながら、他国には貿易自由化を促し、その国の保護規制を緩和もしくは撤廃させていきました。

「米国が安い農産物を輸出してあげるから、非効率な農業などやめちゃいなさいよ…」とか言って。

日本に対するTPPやFTA交渉でもそうでした。

こうしたことの積み重ねにより、穀物を生産する国が減少する一方で穀物を輸入に依存する国が増えていったわけです。

その結果、コメ、小麦、トウモロコシなどの穀物、即ち基礎食料を作る生産国が減り、米国、カナダ、オーストラリアなど少数の農業大国に依存する市場構造になってしまったわけです。

そして2007年、米国(ブッシュ大統領)は「環境に優しいエネルギーが重要である…」という大義名分を掲げ、トウモロコシなどをはじめとするバイオ燃料を推進する政策を推進したことに加え、オーストラリアで旱魃が起きて世界的な需給ショックが発生します。

いったん需給ショックが発生すると、不安心理から輸出国が輸出規制に踏み切ることとなり穀物価格が高騰します。

さらには商品市場の高値期待から投機マネーが流れ込み、高騰どころか「おカネを出しても買えない…」という状況に陥ってしまったわけです。

これが、2008年の食料危機のメカニズムです。

今また、2008年の再来が危惧されているのをご存知でしょうか。

ロシアによるウクライナへの侵攻によって、世界が食料危機になる可能性が高まっています。

ウクライナ危機と言っても、日本人の多くは「ウクライナが可哀想…」程度の感想しか持っていないのかもしれませんが、現実として食糧危機に備えねばならない状況にあります。

ご承知のとおり、小麦の国際価格が上がっています。

ロシアとウクライナの両国で世界の小麦輸出量の約3割を占めているのだから当然です。

戦場となっているウクライナでは今年の作付けができていませんので、小麦の供給が不足する恐れが高まれば高まるほど価格は上昇していきます。

実際に農地が荒らされているばかりでなく、黒海の港が閉鎖されてしまったことで倉庫に保管されている小麦が運び出せずにいるらしい。

小麦のみならず、トウモロコシもまたロシアとウクライナで世界の輸出の約2割を占めていますが、FAO(国連食糧農業機関)によると、ウクライナから約2500万トンの穀物が輸出できない状況にあるとされています。

さて、食料危機に備えてやらねばならないことは唯一つ。

食料自給率を向上させること以外にありません。

これまで徹底した規制緩和により、我が国の食料関連の市場規模はこの35年間で1.7倍に膨張しましたが、残念ながら食料自給率は37%(カロリーベース、令和2年)にまで低下してしまいました。

農家の総収入も12.3兆円から9.7兆円に減ってしまい、低賃金と農業従事者の高齢化から慢性的な担い手不足になっています。

それでいて、食料安全保障に責任をもつべき政府は何の手も差し伸べない。

米国などは、政府が農産物を直接買い入れ、コロナ禍で生活に苦しんでいる人々や子供たちに配給するなどして人道政策と農業政策の一石二鳥策を採っています。

それとは対象的に我が国の政府は「おコメについても、備蓄以上は絶対に買わない」と言い張って生産量の抑制までさせようとしています。

食料安全保障の観点からいえば、減産は自殺行為です。

なによりもまずは自給率を引き上げるための政策が必要であり、自給率を引き下げる「貿易自由化」などを拒否することです。

際限なき貿易自由化は、国産の農産物が安く買い叩かられ、我が国の食料安全保障を脆弱化させるだけです。