電気自動車の矛盾

電気自動車の矛盾

私が大学に入学した年(1989年)、企業の時価総額ランキング世界トップ50の中には、多くの日本企業が名を連ねていました。

たしか1位から5位までは、NTT、興銀、住銀、富士銀、第一勧銀等々、すべて日本企業だったと記憶しています。

それが今や、トップ50のほとんどは米国と中国の企業で占められ、日本企業はかろうじてトヨタの1社のみ(36位)が入っている有様です。(2022年4月現在)

しかしながら、そのトヨタですらあと15年もすれば弱体化し、もしかすると30年後には消え去ってしまうのでは、とさえ言われています。

その最大の理由は、世界がトヨタを潰しにかかっているからです。

トヨタがプリウス(ハイブリッド車)を発売したとき、その優れた環境性と技術力に世界の自動車メーカーが驚愕したらしい。

各自動車メーカーがプリウスを取り寄せ分解してみても、どうしてもプリウスと同等スペックで製造することができない。

彼らは「このままでは世界の自動車産業はトヨタに席巻されてしまう…」と思ったようで、例えばドイツのフォルクスワーゲンが排ガス不正に手を染めざるを得なかったのもそれが原因と言われています。

それもそのはずで、高度な技術で作られたトヨタのエンジンは、長い歴史のなかで下請けの小さな部品メーカーたちと協力して地道な実験と改善を繰り返して実現したものです。

その技術はスーパーコンピューターを用いても正確には把握することができない、とさえ言われるほどに高度なものなのです。

だから当然、エンジンを分解したところで簡単には真似などできない。

そんな恐るべきハイブリッド車を製造したトヨタを何とか他の方法で潰したい、と彼らは考えるに至ったわけです。

そこで彼らが利用したのが「地球温暖化問題」です。

二酸化炭素(CO2)を削減するためには「世界中の自動車を電気自動車(EV車)化すべきだ…」と。

なるほど、近年なぜかプリウスの事故だけが大げさに報道されていたのも頷けます。

他にも多くの自動車事故があるなかで、どうしてプリウスの事故ばかりが大々的に取り上げられるのかが実に不可思議でした。

それはまさに外国に籠絡されたメディアによる「トヨタ潰し」の一環だったのです。

ところが最近では日本政府までもが「トヨタ潰し」に加担しています。

2020年10月の臨時国会において、当時の菅内閣が「2050年 カーボンニュートラル」を宣言したのはご承知のとおりです。

カーボンニュートラルとは、簡単に言うと「温暖化を止めるためにCO2を排出しないようにしよう…」というものですが、そのために日本の自動車業界は2030年半ばにガソリン車の新車販売を禁止され、全ての自動車をEV車にしなければならないとされてしまったのです。

むろん、外国でも2035〜2040年に新車をすべてEV化することになっています。

考えてみてほしい。

2030年というと、あとわずか8年です。

たった8年でそんなことができますでしょうか。

そんなことを強引に行えば、トヨタどころか日本経済そのものが大打撃を受けることになります。

なぜなら、EV車とガソリン車とではサプライチェーン(生産工程)が全く異なるからです。

例えば、全ての生産工程がEV化されることで現在の雇用体制が崩壊してしまうことになります。

エンジン技術者を含め、現在の製造ラインが不要になるわけですから。

EV化に舵を切ったホンダでも既に2000人が早期退職に応募しており、栃木県真岡市にあるエンジン部品工場が閉鎖される見通しです。

あるいは、日本はエンジンの生産能力は世界トップクラスですが、バッテリー(電池)の生産能力が低いため、全ての自動車をEV化するのであれば、現在の30倍の数を作る必要があります。

とはいえ、バッテリーについては現在、中国と韓国が大きなシェアを握っており、これから日本が巻き返すのは至難の業です。

つまり、今までエンジンを作っていた雇用者たちが解雇され、EV化に必要なバッテリー製造は中国や韓国など外国に頼ることとなります。

要するにEV化すると、このような事象が至るパーツで起こるわけです。

加えて、2020年12月、トヨタの豊田章男社長は会見で次のように衝撃的なことを述べておられます。

「例えば乗用車400万台を全てEV化すると、夏の電力使用ピーク時には電力不足に陥る。解消のためには原発であればプラス10基、火力発電であればプラス20基が必要である」

そもそもEV化は二酸化炭素(CO2)を排出しないことが目的だったはずですが、電力生産に火力発電を用いるために自動車が走行するときにCO2を排出しなくとも、電気生産の際にCO2を大量に排出することになります。

しかも、EV車を製造する過程において、どうしても充電と放電を繰り返す検査をしなければならず、その検査だけでも年間50万台製造する工場では1日あたり民家5000軒分の電力を使用することになるという。

即ち、EV化はまったく環境に優しくないわけです。

さらにEV車を充電するには充電設備などのインフラが必要であり、少なくとも現在の技術では5〜8時間程度で充電満タンになるため、自宅での充電器設置も視野に入れなければならず、それには14〜34兆円の費用がかかるらしい。

それを緊縮財政の日本政府が負担してくれるとでも言うのでしょうか。

それとも今後、日本は原発の数を大幅に増やしていくのでしょうか。

米欧中の自動車産業は、国策として政府からの政策的、財政的支援を受けてEV市場を拡大しています。

なお、SDGSだの、カーボンニュートラルだのと、こうした宣伝工作も功を奏し、今や全世界で電気自動車バブルが発生しており、米国テスラなどは生産台数がトヨタの30分の1にしか過ぎないのに、時価総額はトヨタの3倍以上に及んでいます。

政府に守られた外国の自動車産業に対し、政府に守られない日本の自動車産業がどうやって立ち向かうのでしょうか。

トヨタをはじめ日本の自動車産業がEV市場で世界に立ち向かうためには、政府による政策的、財政的支援が不可欠です。

このままでは自動車産業に関わる550万人の雇用が失われるとともに、自動車産業そのものが我が国から消滅してしまいます。