中国もまた電力不足

中国もまた電力不足

電気、ガス、水道等の都市インフラは、私たちの生活を支えるライフライン(命綱)です。

とりわけ電力供給は、一旦停電となってしまえば国民生活に支障をきたすのみならず、生産工場なども停止させ産業経済面にも大きく影響します。

2010年12月に四日市で発生した瞬時電圧低下事故などは典型例ですが、わずか0.07秒間の電圧低下によって、東芝四日市工場のNAND型フラッシュメモリ生産プラントの空調が止まってしまい、一部の生産ラインが停止したため、それだけでおよそ100億円の損害が発生しています。

ほか、コスモ石油四日市製油所、トヨタ車体いなべ工場、三菱化学、パナソニック電工、本田技研工業などでも損害が出たのは有名な話です。

たった0.07秒の電圧低下で…

昨今、我が国の電力安全保障も誠に脆弱化しておりますが、実はお隣の中国でも電力不足が深刻化しています。

電力供給制限は春頃から広東省など一部の地域ではじまり、電力需要が大きくなる夏場には31省、市、自治区のうち北京市や上海市をふくむ20地域に広がっていくようです。

発電量は通常、製造業の生産量など使用量に応じて受動的に決まります。

最近の中国では逆に発電量の制限が製造業の生産量を抑制している状況にあります。

即ち、電力不足が顕著になっている証です。

その主因は、火力発電に燃料として使用する石炭の不足と、それに伴う石炭価格の高騰です。

中国といえば、石炭の産出国のはずです。

その中国でなぜ石炭の不足が起きているのか?

それは、中共政府が石炭生産を抑制する政策を採ってきたからです。

例えば中共政府は、安全基準や環境対策の強化、あるいは汚職摘発を理由にして、内モンゴル自治区や山西省や陝西省などの地域において炭鉱の稼働を停止させてきました。

この背景には、石炭が排出する温室効果ガスを手っ取り早く削減したいという思惑があったものと思われます。

中共政府は二酸化炭素の排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロにする目標を掲げています。

2021年前半に目標を達成したのは30の省や地域のうち10省・地域ですが、その目標を達成するために石炭採掘や石炭を使用した火力発電が削減のターゲットにされ、その削減が強引に行われたらしいのです。

推察するところ「世界のための二酸化排出量の削減!」もまた建前に過ぎず、おそらくは国内で深刻化していた大気汚染をどうにかして解消したい、というのが本音だったのではないでしょうか。

それから、世界有数の石炭産出国であるオーストラリアとの関係悪化も影響しているはずです。

近年、中国はオーストラリアとの外交的関係が悪化しており、よせばいいのにオーストラリアからの石炭輸入を禁輸するなどの措置を採ってきました。

このことが石炭不足に拍車かけたことは紛れもない事実でしょう。

ほか、新型コロナウイルスの影響によりエネルギー資源の需要が世界的に落ち込んでいたことの反動も要因としてあげられるかもしれません。

中国の電力不足によって特に影響がでている産業は、鉄鋼、アルミニウム、セメント産業です。

生産抑制措置が採られ、アルミニウムの生産能力の7%、セメントの生産能力の29%に影響が出ているとされています。

これらはすべて素材の生産です。

その影響がその他多くの製品の製造に関わってくることは容易に想像できます。

実際に米国のアップルやテスラ向けに生産している工場が操業を停止するなどの影響が報道されています。

むろん、中国に工場を置く日本メーカーにも影響が出ているはずです。

例えば、電力制限は半導体関連製品メーカーなどでも実施されており、半導体不足問題はより一層深刻なものとなっています。

電力不足問題を重くみた中共政府は、石炭・天然ガス開発企業に生産の拡大を要請しているらしい。

果たしてどうなるか。

国力とは、モノやサービスを生産する力を意味します。

それを支えるのが市場と資源です。

即ち、供給能力を支える人材、生産資産、技術に加え、「市場」と「資源」を確保できてこそはじめて一国の経済は成立します。

時代は今ものすごいスピードで、グローバリズム経済から経済ナショナリズムへと転換しています。