地政学と公衆衛生

地政学と公衆衛生

ロシアのウクライナ侵攻問題がテレビニュースの主流を占め、加えて先月21日に『まん延防止等重点措置』が解除されたこともあって、新型コロナウイルス問題に関する世の関心が少し薄れかかっているような印象を受けますが、むろんコロナパンデミックは未だ終息していません。

パンデミックが今後どのようなコースをたどるのかを明言できる人などおらず、予測不能な不確実性のなかで多くの人々が悲観と楽観の狭間で「どうか、オミクロンが最後の変異株となってほしい」と思っているにちがいない。

デルタもオミクロンも、来るべき悪夢の前触れに過ぎないのか…

世界を見渡しますと、オミクロン株はかなりの数のブレイクスルー感染を引き起こしたらしいのですが、2月10日時点の厚労省の資料によりますと、米国のオミクロン株流行期におけるmRNAワクチンの入院予防効果は、ワクチン未接種の場合と比べ、2回目接種後14-179日で81%、180日以降で57%、追加接種後14日以降で90%であったと報告されています。

この数字を専門家はどのように見るのかわかりませんが、素人の私にはやはりmRNAワクチンの有用性は高いように思えます。

むろんmRNAワクチンでも免疫を獲得・維持できる期間は限られているのは事実ですが、最悪のウイルスから身を守るには繰り返しのブースター接種の必要性を理解するところです。

ゆえに、多くの国に先駆けてmRNAワクチンを接種したイスラエルでは、60歳以上の高齢者、合併症をもつ人、免疫力が低下している人を対象に既に4回目の接種が開始されています。

現在進行している人への感染が新たな変異株を作り出しているのだとすれば、その克服には世界的な集団免疫の獲得が必要ではないでしょうか。

そこではじめてパンデミック(世界的流行)がエンデミック(地域的流行)へと後退し、やがてはインフルエンザのような季節性の呼吸器疾患へとコロナが変化していく、という楽観シナリオも想定の範囲に入ってきます。

ところが、世界人口の約40%は依然として新型コロナワクチンを一度も接種しておらず、極めて感染に脆い状態にあります。

だからこそ富裕国政府は世界的な接種率向上に努力を払うべきなのですが、もしかするとその富裕国ですらブースターショットを続けるのは困難かもしれません。

それは科学的物理的経済的な理由ではなく、実際、季節性インフルエンザワクチンを接種している人でさえ、国民のごく一部に過ぎないのですから。

ゆえに、あらゆる変異株に適応できる汎用性の高いコロナウイルスワクチンの開発が急がれているのでしょう。

1960年代から1970年代にかけて、世界は一丸となって天然痘を撲滅しました。

このことは公衆衛生史上最大の功績だったと思います。

またそれは、当時覇権国だった米ソという2つの超大国が立場の違いを超えて「当該問題について対処することは正しい」と判断し、協力したからこその賜物でした。

新型コロナウイルスを完全撲滅できずとも、せめて季節性の呼吸器疾患へとウイルスの脅威を軽減させるためには、覇権国による国際社会の意志統一と能力の集結が必要なのですが、残念ながらかつての2大覇権国は今まさにウクライナを舞台にして地政学的に衝突しています。

ロシアのウクライナ侵攻からはじまった戦争の実態は、ウクライナを代理にした米ロ戦争です。

まちがいなく言えることは、新型コロナが天然痘のように国際的協力のもとに撲滅されることはなさそうです。

地政学は経済のみならず、公衆衛生にも大きな影響を及ぼすもののようです。