食料品ゼロ税率の落とし穴

食料品ゼロ税率の落とし穴

先日、私が川崎市議会で提案した意見書案『消費税の減税を求める意見書案』の提案説明のなかでご紹介しましたとおり、日本では「消費税」と呼ばれる直接税は、欧州では「付加価値税」と呼ばれています。

この税金は事業者の粗利(付加価値)に課せられている税金であることから、呼称としては「付加価値税」のほうが正確です。

消費者はあくまでも付加価値税(消費税)の負担者であって納税義務者ではないのですから。

納税義務を負っているのは事業者です。

ではなぜ、わが国では「付加価値税」が「消費税」と呼ばれているのか?

あたかも消費者が納税義務者であるかのように誤解させるため…という狙いもあったでしょうが、実はわが国には過去に「付加価値税」が法制化されたことがあるからです。

わが国に「付加価値税」を最初に提案したのは、あの『シャウプ勧告』で有名なカール・シャウプ氏です。

氏は物品税などの多段階課税を廃止し、各段階で「付加価値」に課税するかたちの税制を提案します。

ここで言う「付加価値」とは、売上から仕入れ(売上原価)を控除し、さらに減価償却を調整したものです。

シャウプ様の勧告を受けた属国日本は「付加価値税」を法制化したのですが、あまりにも過酷な税制であったために評判がわるく、結局は施行には至りませんでした。

施行されなかったものの、なにげに日本は世界ではじめて「付加価値税」を入れた国なのでございます。

その後、フランスの財務官僚モーリス・ローレがシャウプのアイデアを変形するかたちで、すべてのバリューチェーン全体に付加価値税を化す、すなわち今日の「付加価値税」を考案し、それを欧州各国が採用していったわけです。

提案説明でも申し上げましたとおり、モーリス・ローレの狙いはフランスの自動車会社ルノーを救済するための「輸出補助金」を確保することにありました。

むろん、輸出補助金はWTO協定によって禁止されているのですが、付加価値税(輸出戻し金)というかたちをとると回避されるのでございます。

フランスだけに付加価値税を導入されると、各国の輸出企業が不利になってしまうことから、欧州各国は次々と導入に踏み切りました。

そしてわが国においても、「このままでは日本の輸出産業が不利になってしまう〜」という経団連からの要請もあって、1989年4月に「消費税」という呼称の「付加価値税」(輸出戻し税=輸出還付金=輸出補助金)が導入されました。

「付加価値税」ではなく「消費税」と呼称されたの理由は前述のとおりです。

わが国における輸出戻し税の還付規模は、年間約7.5兆円程度にものぼります。

そのうち、トヨタなどの輸出大企業向けが約90%(約6.75兆円)にのぼるとされています。

むろん、それを財政的に負担しているのは日本政府ではなく、国内で消費税を負担している私たち日本国民であり、納税義務を負っている多くの中小零細事業者です。

これが消費税の実態です。

税制であれ、憲法であれ、歴史的経緯を知らぬ者が浅慮な知識で論じると残念ながら本質に迫ることができません。

さて、国政では参議院選挙が近づいていることもあって「食料品の消費税を期間限定で廃止しよう」という意見がでてきました。

主張しているのは、立憲民主党と日本維新の会です。

しかしながら、消費税を減税するなら一律にすべきです。

食料品だけゼロ税率にすると、多くの弊害が生まれます。

例えば、食料品だけをゼロ税率にすると、居酒屋さんなどの飲食店が軒並み経営難に陥ることになります。

なぜなら、おコメなどの食料品が課税仕入れから除外され、非課税仕入れに組み入れられてしまうからです。

要するに飲食店にとっては事実上、消費税増税になります。

一方、輸出戻し税が輸出企業に利益をもたらしているように、食料品だけをゼロ税率にすると、輸出戻し税の理屈と同じ理屈で今度は食品会社に還付金が入ってくることになります。

それはそれで良いことでは?、と思われるかも知れませんが、このことで利益を受けるのは大手の食品会社や大手のスーパーで、
残念ながらその利益が労働者の所得に反映される可能性は低く、利益の多くは株主配当に還元されることになるでしょう。

するとどうなるか、経団連などが制度の延長を求めはじめ、この歪つな税制が長期的に固定化されてしまう可能性が大です。

昨日の東京都議会議員選挙の結果をみても、参議院選挙後の自民、立民、公明による大連立政権の可能性もあり、もしもそうなれば消費税の恒久化という最悪な事態は避けられません。