日本経済新聞の勇み足

日本経済新聞の勇み足

先日、日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しについて発表しました。

見直しとは、10年物国債の金利変動幅を、これまでの±0.25%程度から±0.5%程度に拡大するというものです。

この発表を受け、日本経済新聞が次のように記事にしています。

『投機筋に追い込まれた日銀 国債空売り再燃、緩和限界に

投機筋に追い込まれた日銀 国債空売り再燃、緩和限界に 動いた日銀 緩和修正を読む - 日本経済新聞

日銀が10年続いた大規模な金融緩和政策の修正に動いた。止まらぬ円安に政府の危機感…
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日銀が10年続いた大規模な金融緩和政策の修正に動いた。止まらぬ円安に政府の危機感が強まり、政策変更を見越した投機筋の債券売りも膨らむなか、10年債利回りの上限金利の引き上げという「事実上の利上げ」に追い込まれた。(後略)』

なんと日本経済新聞は、「日銀が事実上の利上げに追い込まれた」と言っています。

これは明らかなミスリードだと思います。

少し説明が必要になります。

イールドカーブ・コントロール(YCC)とは、短期金利と長期金利の両方を、日銀が目標とする水準に誘導する金融政策のことです。

2016年9月以降、日銀は長短金利操作によって残存年限(満期までの期間)ごとに目標とする金利水準に誘導しています。

残存年限ごとの金利をグラフ上で線にすると、その線が曲線を描くためにイールドカーブと呼んでいます。

国債の利子率はふつう、残存年限(満期までの期間)が長いほどに高くなります。

例えば、2年物国債の金利は0.1%、5年物国債の金利は0.2%、10年物国債の金利は0.3%、20年物国債の金利は0.4%、30年物国債の金利は0.5%、40年物国債の金利は0.6%、50年物国債の金利は0.7%、60年物国債の金利は0.8%、というように残存年限ごとに目標金利を決め誘導するわけです。

この曲線を日銀がコントロールするから、イールドカーブ・コントロール(YCC)と言います。

因みに、世間には「これ以上政府が国債を発行すると、やがては金利が上昇して借金が返済できなくなるぅ〜」という珍説を恥ずかしげもなく提唱されている人たちがおられますが、国債の利子率は中央銀行が人為的・外生的に操作可能な政策変数なのでございます。

そもそも、イールドカーブをコントロールすることが可能であるからこそ、日銀は「10年物国債の金利変動幅を、これまでの±0.25%程度から±0.5%程度に拡大します…」と言っているわけです。

ここが大切ですが、黒田日銀総裁は「利上げする」などとは言っていません。

しかも日銀は12月19〜20日の金融政策決定会合において、日銀当座預金の政策金利残高の金利をマイナス0.1%、長期金利の誘導目標を0%程度とする「YCC付き量的・質的金融緩和」の現状維持を決定しています。

要するに「日銀は緩和政策を継続します」と言っています。

10年物国債の金利変動幅を±0.5%に修正するのは、10年物国債の金利が9年物国債や8年物国債よりも低くなってしまった(イールドカーブが歪んでしまった)からです。

10年物国債の金利が9年物国債や8年物国債の金利よりも低くなってしまったのは、投機筋が10年物国債に空売りを仕掛けてきたことへの対抗上、日銀が買い支えたからです。(円の発行に上限のない日銀が投機筋に負けるわけがない)

よって、日銀が行おうとしているのは利上げでも何でもなく、ただ単にイールドカーブを修正するだけの話です。

ただそれだけ。

にもかかわらず、日銀が利上げに踏み切りつつあるように記事にするのは、日本経済新聞の勇み足だと思います。