間違いだらけの『経済財政諮問会議』

間違いだらけの『経済財政諮問会議』

14日に開催された経済財政諮問会議(総理の諮問機関)において「国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2025年度にまでに黒字化すべきだ」という意見がでたようでようですが、果たして6月に発表予定の『骨太の方針』(経済財政運営と改革の基本方針)にそれが盛り込まれるのかどうか。

菅総理は「財政健全化の旗を降ろさず、これまでの歳出改革努力を続けていく」と述べているので、盛り込まれる可能性は充分にあります。

プライマリーバランス黒字化という狂気沙汰の目標が盛り込まれることにより、もっとも影響を受ける予算は社会保障費と公共事業費です。

なぜ狂気の沙汰なのかは言うまでもありませんが、まず第一に政府収支の黒字化は民間収支の赤字化ですので、消費税増税&コロナ不況で苦しむ民間部門(家計+企業)はさらに経済的に追い込まれることになります。

ゆえに政府部門の黒字化は国民経済にとって実に不健全な状態です。

第二には、前述のとおり政府支出が削減されていくことで、主として社会保障費と公共事業費が削られることになります。

何よりも、そのことによって医療、介護、公衆衛生、防災、インフラ構築などの供給能力が毀損されていくことが恐ろしい。

今回のコロナ危機においても、病床や保健所を削減してきたツケが顕著に現れたのは周知のとおりです。

仮にワクチン接種が進み、世の中が集団免疫を獲得していくなかで新型コロナ問題が終息に向かったとしても、経済は直ぐにV字型には回復できません。

リーマン・ショックの後もそうであったように、それまでの供給能力がショックにより毀損されることで成長力を失ってしまうからです。

供給能力の毀損は結果として働き手の所得獲得機会を喪失しますので、そのことが消費力の減退へとつながり需要不足を招きます。

であるからこそ、ショック以前の供給能力を再構築するための「投資」が必要になります。

とはいえ、何度も申し上げているとおり、総需要が不足するデフレ経済下では民間部門による投資は期待できません。

だからこそ、政府部門の赤字が必要になるわけです。

にもかかわらず、これまで歴代内閣は、①政府債務残高が国内総生産(GDP)比で突出していること、②プライマリーバランスが赤字化していることの二つを理由にして緊縮財政(歳出削減)による収支均衡政策を行ってきました。

その結果、例えば2000年以降の公共事業関連費をみますと明らかに当初予算が低く抑えられています。

積極財政を主張されている元内閣官房参与の藤井聡先生のご活躍もあって、国土強靭化関連の補正予算がつくようにはなっていますが規模としても実に小さい。

米国のバイデン政権が議会に対し200兆円以上もの投資計画を提案しているのと比べると、極めてしょぼい規模です。

言わでもがな、インフラは国民生活を支える根幹的基礎です。

国民を自然災害から守りつつ、一国の経済競争力を保障して経済成長を実現させる根源です。

とりわけ、国全体の競争力の根源である交通インフラへの投資は不可欠です。

なぜなら交通インフラこそが、その国の移動速度と移動容量を決定するからです。

以前、経済財政諮問会議は「日本のインフラは概成しつつある」という認識を示していましたが、アホか!

インフラの成熟度とは、①競争相手国に対して比較優位にあるのか、②迫りくる災害外力に対して備えが充分なのか、その二点での視点で判断されるべきものです。

今や我が国は、スイスIMDの『競争力ランキング』でも韓国に差をつけられ負けているし、台風が来るたびにあちらこちらで河川が氾濫し死者を出しています。

これのどこが「概成している」と言えるのか。

詰まるところ、健全財政を求める『経済財政諮問会議』は貨幣に関する正しい知識を有していないし、もはや現状認識すら間違っています。