実質賃金の上昇なきデフレ脱却などあり得ない

実質賃金の上昇なきデフレ脱却などあり得ない

日本経済新聞社が今朝の記事のなかで「日本経済はデフレの状況から潮目が変わってきた」と主張しています。

新社会人の皆さんへ「日本経済の今」を簡単解説 物価・賃金・成長率の現状は - 日本経済新聞

日本の経済は物価が持続的に下落するデフレの状況から潮目が変わってきました。202…
www.nikkei.com

ということは、少なくとも同新聞社はこれまでの日本経済がデフレ状態にあったことをお認めになるんですね。

すなわち、同新聞社は日本経済はデフレ下にあるとお認めになっていた上で、財政収支の均衡や国債発行の抑制、すなわち緊縮財政の必要性を説いてきたことになります。

恥ずかしげもなく、ここまで堂々と無知をさらけ出してくれると、かえって実に清々しい。

そして、「デフレの状況から潮目が変わってきた…」ことの根拠として、同社は次の4つを挙げています。

①日経平均株価が株価が史上最高値をつけたこと、②春闘で賃上げされたこと、③日銀がマイナス金利政策を解除したこと、④物価(コアCPI)が23ヶ月連続で2%以上になっていることです。

「・・・」

さて、例によって一つ一つ撃破していきたいと思います。

まず、①については、日経平均株価と実体経済は連動しません。

現に、日経平均株価が上昇し続けても、実質賃金はそれと反比例して下がり続けています。

次いで②ですが、春闘による賃上げは限られた就業者の話であって、国内の就業者全体の賃金が上がる保証などありません。

労働組合に加入している就業者数は16%しかおらず、残りの84%の就業者にとって春闘は関係がないのです。

しかも、国内の就業者の7割は中小企業で働いており、今回の大手の賃上げが下請け、孫請け、曾孫請けの中小零細企業の低価格発注へとつながり、それが中小零細企業で働く就業者の賃金を抑制する可能性すらあります。

③の日銀のマイナス金利政策の解除が正しかったかどうかは、現時点においては実に疑わしい。

マイナス金利政策を解除しても、短期プライムレートに影響しなければ、実体経済にはほとんど影響がないのではないでしょうか。

④については、いちいち解説するのもバカバカしいのですが、コアCPIとは、生鮮食品を除く総合消費者物価指数のことですので、輸入されるエネルギー価格が含まれています。

ゆえに、日本経済新聞もグラフで示しているとおり、コアCPIが22ヶ月連続で上昇しているのは、2021年からのコストプッシュ・インフレが原因です。

「デフレ解消の潮目」と言うのであれば、少なくとも実質賃金とコアコアCPI(エネルギーと食料を除いた総合消費者物価指数)が相乗的に上昇しはじめていなければならない。

しかしながら、日本経済新聞も掲載しているように、肝心の「実質賃金」は22ヶ月連続でマイナスが続いています。

やはり何と言っても、実質賃金の動向は重視されるべきだと思います。

実質賃金が上昇しないままにデフレが克服されることなど、物理的にあり得ませんので。

ちなみに日本政府は以下の4つを「デフレ脱却4条件」として定めています。

(1)CPI(消費者物価指数)
(2)デフレーター
(3)需給ギャップ
(4)単位労働コスト

この4つ指標がいずれも「デフレでない」ことを同時に指し示すことができて、はじめて「デフレではない」と判定するとしていますが、ここに「実質賃金」が入っていないのが解せません。

4つの指標のなかに「単位労働コスト」が入っていますが、単位労働コストはデフレとは無関係に少子高齢化により生産年齢人口(15〜64歳)比率が低下することで自ずと上昇していきます。

しかもCPIについてもコアコアCPIでみなければ意味がないと思いますし、需給ギャップについても竹中大臣以来、概念変更されギャップが小さく見えるように計算されています。

このように、極めてハードルの低い指標をデフレ脱却の目安にしているにもかかわらず、それでもなお「デフレ脱却」を宣言できないほどに現実の日本経済は深刻なのでございます。

くどいようですが、現在の日本で発生している物価上昇は、コストプッシュ・インフレであって、真の意味でのデフレ脱却(デマンドプル・インフレ)による物価上昇ではありません。

求められているのは、国民の実質賃金を押し上げるかたちでの物価上昇です。

そのためには、政府による財政支出の拡大(新規国債の増発=貨幣創造=需要創造)が欠かせません。