経済制裁とドル体制

経済制裁とドル体制

もしも米国の経済面・軍事面での退潮が進むとすれば、これまで国際秩序を形成してきた米国による一極秩序体制(Unipolar Hegemony)は揺らぎ、世界は大国間競争の時代に向かっていくものと推察します。

ロシア・中国・イランなどの、いわゆるリビジョニスト国家は、既にそれを見据えているものと思われます。

そこで気になるのが基軸通貨たるドル(米ドル)の行方です。

ご承知のとおり、国際社会におけるドルの中核性は主として米国の経済力と軍事力により支えられてきました。

しかし今や、ライバル国の地政学的思惑がドルの通貨ヒエラルヒーにおけるトップの座を揺るがしつつあるとも言われています。

例えば、ロシア・ウクライナ戦争を前にして米国がロシアに経済制裁を発動した際、その制裁の痛みから逃れようとドルへの依存レベルを引き下げた国もありました。

果たして、世界経済におけるドルの支配体制を揺るがすリスクは拡大しているとみるべきなのか、それともまだまだドル体制は揺るぎないものとみるべきなのか。

むろん識者のなかには「ドル中心の金融システムがカバーする世界は小さくなっているかもしれないが、ドル体制はより深く定着している」という意見もあります。

とはいえ、既存の通貨ヒエラルヒーを維持しつつ、通貨体制が多極化するリスクを抑えるためには、米国は国際秩序を維持するための公共財を強化する形で外交を展開しなければならないでしょう。

だからこそ米国は、世界の同盟国に対して「集団安全保障」への積極的な参加と、それを可能にするための防衛力整備と防衛予算の確保を呼びかけているのだと思います。

米国が日本の防衛費をGDP比2%水準に引き上げてほしいと望むのは、なにも日本の自主防衛を望んでいるわけではなく、同盟システムの一員として積極的に集団安保の責務を果たしてほしいと望んでいるに過ぎません。

万が一にも主要な同盟国や国際社会の多くを離反させることにでもなれば、米国がドル支配体制を維持することは困難になります。

一方、前述のとおり、中国やロシアが自国通貨の国際的利用を促進しようと試みているなか、米国は各国に対ロ制裁レジームへの参加を呼びかけています。

言うまでもなく、ドルの優位は政府や民間が他の通貨と比較してドルに多くを依存していることによって維持されています。

個人投資家、企業や金融機関など民間法人は、貿易や投資のためにドルを利用していますし、また、我が国もそうですが、多くの国が自国通貨相場が不安定化したときの対処のために、ドル建てで外貨準備を保有しています。

あるいは、自国通貨への信認を得ることが困難な場合、為替レートを安定させようと自国通貨の価値をドルに「ペッグ」させる国もあります。

しかしながら、米国が敵対国に対して行う「経済制裁」は、これらの活動のほとんどを停止させることになります。

例えば、特定国の銀行やその他の重要な組織がドルを使用できないようにするなどの制裁、あるいは中央銀行の外貨準備を凍結するなどの厳格な制裁は、外国政府が外貨準備を使って外国為替市場に介入したり、自国経済にドル資金を供給したりする能力を奪うことになります。

そんなこともあってか、ロシアへの経済制裁が世界の通貨保有量の再編を引き起こしていると指摘する識者もいます。

にもかかわらず、ロシアや北朝鮮に対する経済制裁は、それほどの効果を上げていないとも言われていますので、米国としても頭の痛いところなのでしょう。