ノルウェーのEV事情

ノルウェーのEV事情

ノルウェーは、2025年までに市場に出る新車すべてをCO2ゼロ排出車にするらしい。

そのためノルウェー政府は、電気自動車(以下、EV)および水素燃料電池車(以下、FCV)の購入者に対し、様々な優遇措置を講じています。

具体的には自動車の付加価値税(日本でいうところの消費税)25%、購入税、交通保険料をそれぞれ免除しています。

それだけではありません。

例えば、高速道路の利用料金や駐車料金が軽減されたり、EVやFCVの運転者はバスレーンを利用できる特権が与えられたりしています。

そこまでやる国ですから、充電インフラの整備も政府の支援のもとに整っているらしい。

道路沿いに設置された利便性の高い充電スタンドは、アプリをダウンロードし、クレジットカード情報を登録するだけで使用が可能なのだとか。

それだけではなく、多くのホテルや旅館、さらにはAirbnbなどのような一部の民泊仲介の宿泊施設でもEVの充電が可能となっているようです。

それに、普段からEVを利用していない一般市民でも、一部地域では電池で動くボートやクルーズ船、電動バイク、または電動ケーブルカーなども利用できる環境が整っているとのこと。

とはいえ、それだけ国を挙げて充電インフラを充実させているにもかかわらず(人口500万人規模の国であっても)、必要な急速充電設備が充分に供給されていないのが実状のようです。

とりわけ人口の多い南部では、長期休暇などの交通量が増える時期には大規模な「充電渋滞」が発生するらしい。

因みに、ノルウェーもまた、ウクライナ戦争の影響などで電力料金の高騰が問題となっています。

ノルウェーは電力供給の大部分を占める水力発電が人口の少ない北部に位置していますが、それを南部に送る送電網が充分でないがゆえに、南部は海外からの電力輸入に頼っています。

ノルウェーの電力料金の変動は凄まじいらしく、なんと1ヶ月分の電力料金が12〜13万円になることもあるという。

水力発電は一般的に低コストなのですが、送電手段が不足していることで南部と北部の電力格差が生じているのでございます。

南部の首都であるオスロ近郊では、EVの満充電に14,000円もかかることもあるらしい。

日本におけるレギュラーガソリン満タン給油の約2倍の価格ではないか。

それでよく政府の政策に対して不満がでないですね。

さて、EV普及のための優遇措置がとられている一方、ノルウェー政府はこれらの措置を無期限に続けることは困難との見解を示し、優遇策を段階的に縮小していくようです。

そういえば、首都オスロ市の副市長がニューヨーク・タイムズのインタビューに答えるかたちで衝撃的な発言をしています。

「EVシフトは偽善であり、私たちは汚染を輸出している…」

この発言の背景には、ノルウェーがEVの普及を推進し、国内の温室効果ガスの排出を削減する一方で、大量の原油とガスを生産して輸出しているという現状への批判が込められているのでしょう。

かつてノルウェーは「サーモンとサバしか輸出しない国」などと揶揄されていましたが、1970年代からはじまった北海の油田開発によって国の富(天然資源)は大幅に増えました。

その結果、一次エネルギーの自給率が世界最高の68%以上となったのですが、そのエネルギーはほぼ全てが水力発電によるもので、北海から採取される石油やガスはほとんどが輸出に回されるという、他の国では見られない特徴を持つようになりました。

ノルウェーの石油生産量は世界14位であり、同時に欧州で最も大きな天然ガス生産国でもあります。

2019年にノルウェーが排出したCO2は約1億トンでしたが、同年に輸出した石油と天然ガスから排出されたCO2は約4.8億トンとなっており国内の5倍に相当しています。

要するに、ノルウェーが国内のCO2排出量を削減する一方で、他国に大量のCO2排出を移転させている、という矛盾をオスロ市の副市長は指摘しているわけです。

また副市長は「ノルウェーが真に持続可能な社会を目指すなら、化石燃料の輸出から再生可能エネルギーの輸出へと政策の軸足を大きく移す必要がある」と主張しています。

前述のとおり、ノルウェー政府はCO2ゼロ排出車の購入者へ優遇策を導入していますが、その優遇策の資金源が化石燃料の輸出収入であるとするならば、なるほどそれは大いに矛盾しています。

一部報道によると、ノルウェー国内のCO2の削減量より輸出による排出量の方が40倍も高いとさえ言われています。

あるいはEVの導入によって1トンのCO2を削減する一方、製造過程では45〜73トンものCO2排出を引き起こしているという指摘もあります。

それが事実であれば、EV導入によるCO2の削減が逆効果になっていることになります。

ノルウェーは、国内で消費される電力の約95%を水力発電によって賄っていますが、水力発電は水の供給量や気候変動に大きく影響されるため、電力供給の安定性も問題となっているようです。

そもそも、一つの供給源に依存することはエネルギー安全保障として大問題です。

結果、ノルウェーは火力発電などで生成された電力を他国から輸入していますので、他国で発生したCO2を輸入していることにもなります。

現在の状況をみますと、EVはその性能によって自然に普及しているわけではなく、輸出から得た大量の資金を投入して政策的かつ強制的に普及させているにすぎないのでしょう。

よって、「(ノルウェーの政策を参考に)日本でも同様のEV普及を推進すべきだ…」という意見は、誠にもって短絡的と言わざるを得ません。

バッテリーなどの関連技術が大幅に進歩しないかぎり、EVの普及はまだ当分先のことになろうかと推察します。

どうみてもEVではなく、ハイブリッド車を普及した方がよほどに現実的で環境にいいと思うのですが…