コストプッシュ・インフレでも「利上げ」する主流派経済学の病魔

コストプッシュ・インフレでも「利上げ」する主流派経済学の病魔

FRBによる急激な利上げ政策により、わずか2週間あまりの間に米国の銀行が相次いで破綻したことに驚かされました。

その影響は海外にまで及び、スイスの金融大手は深刻な経営危機に陥り救済合併されることになりました。

信用不安の発端となったのは、アメリカ西海岸の「シリコンバレー銀行」です。

金利の上昇により、シリコンバレー銀行の貸出先の大半を占めるスタートアップ企業の資金繰りが悪化したらしい。

なお、金利が上がると値下がりしてしまう債券をシリコンバレー銀行が大量に保有していたこともわかり、預金者による取り付け騒ぎが起こったというのです。

ご承知のとおり、銀行は大量の預金引き出しに見舞われると実に脆い。

市中銀行は預金通貨は発行できても、現金通貨を発行することはできませんから。

結果、3月10日、シリコンバレー銀行は破綻に追い込まれました。

その二日後には、ニューヨーク州の銀行が同じように経営の先行きに疑問をもたれ破綻しました。

金融不安は大西洋を越えてスイスの大手金融グループであるクレディスイスにまで波及したわけです。

クレディスイスは、世界の金融システムに大きな影響を及ぼしうる巨大な金融機関として認定された銀行のうちの一つです。

ところが去年の秋以来、貸し出しの焦げ付きや、元幹部による不祥事が発覚。

今月中旬に筆頭株主が追加投資を拒否したことが伝えられると信用不安が一気に高まり、急遽、他社に救済合併されることになりました。

幸いにも日本の銀行は経営的な影響は受けなかったものの、欧米で起きた信用不安を受けて、連日、株価が急落しました。

こうした事態を受けて、日米欧の6つの中央銀行は「市場へのドル資金の供給を拡充する」ことを発表しました。

企業や銀行に必要なおカネは充分に供給しますよ、というメッセージを市場に発して事態の沈静化を図りました。

その後、とりあえず新たな取り付け騒ぎは起きていません。

こうした中、私が最も注目したのが日本時間3月23日の未明まで開かれたFRBの会合です。

米国の金融政策を決めるこの会合で、利上げを「継続するのか…」それとも「止めるのか…」に注目したわけです。

世界中の市場関係者が見守るなか、なんとFRBは前回の会合と同様に「0.25%の利上げ」を決定しました。

「えっ、ほんまかいな…」と思いましたが、FRBのパウエル議長は「米国の金融システムは健全だぁ〜」と繰り返し、今回破綻した二つの銀行は例外的なケースだと主張しています。

ただし、声明文からは「継続的な利上げが必要だ」というこれまでの文言が削除されています。

いわば「今回はひとまず利上げを決めたけど、今後は信用不安による経済への影響を見極めながら慎重に考えていきます…」という姿勢に転じた模様です。

そもそも主たるインフレ要因がコストプッシュであるにもかかわらず、それを「利上げ」で応じているところに無理があります。

コストプッシュ・インフレは、外生的要因で供給能力が著しく制約されてしまうことで発生します。

景気の過剰加熱で需要過多となるデマンドプル・インフレとは異なります。

コストプッシュ・インフレ下での利上げは、ただでさえ不足する需要を抑制してしまい人々を益々もって貧しくし、供給能力を引き上げるための設備投資や技術開発投資をも減退させます。

要するにFRBは2重の間違いを犯しています。

パウエル議長は「銀行向けの緊急融資制度を新たに設け、破綻した二つの銀行についても、預金を全額保護するという異例の対策を打ち出しているから問題ないのだ…」と言っていますが、銀行が潰れなきゃそれでいい、という問題ではないでしょうに。

結局、インフレには2種類あることを、どうしても理解できないのでしょう。

これもまた主流派経済学の病魔です。