困難な経済運営を強いられる時代

困難な経済運営を強いられる時代

いま私たちは、第二の戦間期に生きていると言える。

第一の戦間期は、第一次世界大戦が終了した1919年から第二次世界大戦がはじまる1939年の20年、即ち戦争と戦争の間の束の間の平和の時期、これが20世紀の戦間期と言われています。

この時代を振り返りますと、19世紀の終わり頃(日本でいうと幕末から明治初期にかけての時期)から、現在と似たようなヒト、モノ、カネの国境を越えた移動の自由が最大化される「グローバリズム」がはじまり、その結果として第一次世界大戦がもたらされたのでございます。

グローバリズムの結果、イギリスやドイツの国家としてのパワーバランスの変化、欧州各国の政治的な対立、それによるナショナリズムの暴走などを生んで大戦争に至りました。

1919年に第一次世界大戦が終結した際、人々は「これでやっと平和になった…」と期待し、元の世界に戻そうと努力しました。

しかしながら、その平和も長続きしなかった。

第一次世界大戦が終わって10年後の1929年には「世界恐慌」という資本主義史上最悪の不況がはじまり、さらにその10年後にはデフレの深刻化、ブロック経済、ナチスドイツの台頭などを経て、最終的にはヒトラーがポーランドに侵攻して二度目の世界大戦が勃発することになりました。

翻って現代はどうか。

いまは第二の戦間期とみるべきで、1989年から現在に至る。

1989年にベルリンの壁が崩壊し、米ソによる冷戦が終焉したことで「これで世界は平和になった…」と多くの人々が期待したわけです。

平和が支配的になり、「もはや国境にこだわる時代は終わった…」ということで、ヒト、モノ、カネが自由に国境を越えるグローバリズムが再びはじまりました。

日本企業も外国の企業も国籍にこだわらず世界中でおカネ儲けをしていくことが、人類を繁栄させ、世界をより平和にしていくのだと広く信じられたのです。

因みに1990年代以降の日本の政治が、グローバリズムの根本思想であるネオリベラリズム(新自由主義)に基づいて進められたのは、こうした背景があったからです。

しかしながら、このグローバリズムの流れには必ず限界がやってきます。

そのきっかけの一つは、2008年のリーマン・ショックという金融危機にあったと思いますが、その14年後の昨年、ロシアがウクライナに侵攻しました。

第一次世界大戦が終了して10年後に世界恐慌が起き、さらにその10年後にドイツがポーランドに侵攻するに至った期間となんとなく符合します。

ウクライナの背後にはNATO及び米国がついていて戦況は泥沼化・長期化しており、その玉突き事故のようにこの対立が東アジアにも影響して、中共による台湾侵攻の危機、北朝鮮の軍事挑発などの問題が日本にとっても直接的な脅威になっています。

次にどのような有事が発生するのかを予測することは困難ですが、もはや元の時代(束の間の平和)に戻らないことは明らかです。

加えて、今年以降は世界経済も大きなターニングポイントを迎えそうです。

ご承知のとおり、コロナ禍とウクライナ戦争の影響から、世界中でコストプッシュ・インフレがもたらされています。

わが国では昨年からコストプッシュ・インフレが問題になっていますが、米国では既に一昨年(2021年)の後半から物価は上昇しはじめていました。

当初は、今回の物価の上昇は一時的な現象であり、すぐに終息すると考えられていましたが、歴史的にみてもコストプッシュ・インフレ対策は一筋縄ではいきません。

米国の中央銀行(FRB)は慌てて金利を引き上げていますが、コストプッシュ・インフレ対策として利上げが正しい処方箋であるとは言い難い。

そもそも利上げとは、人為的に景気を悪化させる政策です。

金利が引き上げられれば、企業や家計におカネが回らなくなります。

例えば、昨年12月14日に改定された米国の政策金利は4.25%~4.50%ですので、おそらく住宅ローン金利は7%ちかくにまでなるのではないでしょうか。

ゼロ%の金利を前提に借り入れている家計が変動金利で7%になってしまったら返済などできるわけもない。

今後は確実に米国経済は冷え込むでしょう。

現に冷え込んでいます。

米国のインフレ率は8%台と高止まりしていますが、ヨーロッパは10%台ともっと高止まりしています。

繰り返しますが、今回のインフレは通常の需給バランスの問題ではなく、戦争等による供給制約(コストプッシュ)によりもたらされていますので、戦争が続くかぎり解消される見込みはありません。

そして、前回のリーマン・ショック危機はデフレを伴った経済危機で、この場合は各国政府が財政及び金融政策を拡大すればなんとか解消できましたが(日本だけが財政拡大をしなかった)が、今回、深刻化しているコストプッシュ・インフレは実に厄介で、その政府対策は実に精密さを求められます。

基本的には、1979年のオイルショック以降、とりわけ1990年代以降のグローバリズム以降、世界各国はディスインフレを享受してきました。

ディスインフレどころか、デフレに陥り、いまもってなお脱却できていない国もありますが…

しかしながら、米国の一極秩序とグローバリズムが終焉し、平和が支配的ではなくなってしまった今後の世界においてはインフレが恒常化することが予測されます。

むろん、地域によってインフレ率には差がでるでしょうけど。

要するに時代は変わったのです。

少なくとも、新しいパラダイムのもとで難しい経済運営を強いられる、そんな時代が訪れています。