日銀ウォッチャーの目は節穴

日銀ウォッチャーの目は節穴

加速する円安を食い止めるため、政府・日銀はついに「円買い介入」を実施したらしい。

いっとき円相場は1ドル=145円台まで下落したものの、介入により140円台まで戻したとのこと。

我が国はアジア通貨危機の際(1997〜98年)にも「円買い介入」に踏み切りましたが、あのときは日米両国による介入だったこともあって効果的な介入となりましたが、今回は日本のみの単独介入なのでその効果は限定的とみられています。

そうしたなか、メディアは現在の円安を問題視し、金融緩和を続ける日銀に攻撃の矛先を向け、あまつさえ政府による財政支出拡大をも批判しています。

例によって「日米の金利差がぁ〜」「日本の負債残高がぁ〜」「政府による財政支出の拡大がぁ〜」という具合です。

東短リサーチ(東短グループの調査・研究部門を担うシンクタンク)に加藤出(かとう いずる)というエコノミストがいます。

氏は、長年にわたり日銀の政策を分析してきたことから「日銀ウォッチャー」の異名をもって知られており、経済番組でも時折お見かけします。

加藤氏によると「行きすぎた円安で円がジャンク(がらくた)通貨化している」らしい。

なお、日銀の政策(金融緩和政策)の影響で「私たちがためてきたお金の対外(的な)価値が落ち、生活コストが上昇してきている」と述べています。

要するに、日銀の金融政策のせいで日本国民の生活コストが上昇している、と言うわけです。

いっけんごもっともそうなご解説ですが、この種の解説を聞くと実に腹だたしくなってきます。

そもそも、いま日銀が行っている金融緩和は、2012年12月に発足した第二次安倍内閣が当時の日本経済の現状をデフレ状態と判断し、そのデフレを脱却する手段の一つとしてはじめられたことです。

いまもってなおデフレが払拭されていないがゆえに、日銀は金融緩和を終了する(利上げする)ことができないでいます。

デフレさえ脱却すれば、いつでも金融緩和を終了することができます。

現在、円安によって輸入物価が高騰するコストプッシュ型インフレが発生しているのは事実ですが、それと同時に我が国ではデフレが共存しているのでございます。

問題は金融緩和という手段だけではデフレを払拭することはできないことで、デフレを払拭するには何よりも政府支出を拡大すること、あるいは政府財政を赤字にすることが必須条件となります。

政府による需要創造(財政支出の拡大)がなければ、日本経済の総需要不足は解消されないからです。

その必須条件である財政支出の拡大を巧みに阻止してきたのが、在りもしない「国の財政破綻」をプロパガンダしてきた我が国のメディアであり、加藤氏のようなエコノミストたちです。

あんたらのせいで我が国はデフレを脱却できず、日銀は金融緩和を終了できないでいるのですよ。

にもかかわらず日銀の金融政策を批判しているところに彼ら彼女らの欺瞞があります。

なお、加藤氏が「円安で円がジャンク通貨化している」という理由として、実質実効為替レートがあるのだと思います。

実質実効為替レートは一般的に輸出価格競争力を測る指標として広く用いられるものですが、エコノミストたちの多くは「通貨の実力」や「内外の物価格差を考慮した円の実質的な価値」などと説明されているようです。

上のグラフのとおり7月の実質実効為替レートは58.7となり51年前の水準に低下し、世界各国に比べても最低水準にあることから加藤氏は「円の価値がガラクタ化している」と言いたいのでしょう。

しかしながら、この指数は実質実効為替レートとあるように「実質」であり、物価の影響が考慮されていることに注意が必要です。

もう既にお察しの方もおられるかもしれませんが、ご承知のとおり我が国経済は1998年以降、デフレ経済に突入したまま未だ払拭できておらず、ディスインフレ状態が25年も続いています。

要するに、世界一の低インフレ国なのですから、実質実効為替レートが世界一低い水準になって当然なのでございます。

むろん自慢にはならないことですが、この20年間で「円の価値を下げた」のだとすれば、それはあなたたちが在りもしない日本破綻論を世に流布して政府に財政支出の拡大をさせなかったことが主因です。

アメリカ(バイデン政権)はコロナ不況から国民を救うために(救済計画)、総額1.9兆ドルという追加的な財政支出を行いました。

コロナ禍が明け、経済活動が再開されたと同時に、そのカネが一気に消費に回り経済が成長しインフレを加速させたのです。

といっても、その時点でのインフレ率はおよそ5%程度で、いわゆるデマンドプル型インフレであったがゆえに金融を引き締める(利上げする)ほどのものでありませんでした。

一転、いまの米国経済に襲いかかっているインフレはデマンドプル型ではなく、コストプッシュ型のインフレです。

なので本来、米国は金融引締め(利上げ)など行うべきではなかったはずです。

しかし残念ながら、米国FRBは利上げに踏み切ってしまったわけです。

インフレには2種類あることを理解できないアメリカの政策当局もたいしたことありませんね。

加藤氏は「アメリカが利上げしたのだから日銀も利上げしろ…」と言いたいのでしょうが、これまで述べてきたとおり現在の日銀が利上げを選択することはなかなかに困難です。

日銀ウォッチャーは、いったい日銀の何を見てきたのか…