台湾有事と法的根拠

台湾有事と法的根拠

ロシアによるウクライナ侵攻への関心が薄くなったのか、連日、テレビメディアは盛んに台湾問題について取り上げています。

切羽詰まらないと本格的に報道しないという姿勢は日本のメディアの悪しき特徴で、実に残念なところです。

さて、昨年末、故安倍元総理は台湾のシンポジウムで「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事だ」と発言されました。

テレビに出てくる専門家たちもまた同じように解説しています。

しかしながら、この論理は厳密には成り立たない。

日米安全保障条約をちゃんと読んでほしい。

第5条には次のようにあります。

「各締約国は、日本国の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する」

要するに日米安保5条には「米軍が集団的自衛権に基づいて支援する」との趣旨が書いてあるわけですが、「米軍が攻められたときに日本が支援する」とは書かれていません。

よく「片務条約では…」という指摘がなされているのはご承知のとおりです。

次いで6条には、米国が日本に陸海空軍の施設(基地)を置く目的について記されています。

「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」と。

ご覧のとおり6条において「日本“並びに”極東の安全のため」と謳われているのに、台湾で起こったことを日本有事の問題に一本化してしまうのは、どう考えても無理があります。

残念ながら、中国が台湾を攻撃したら日本も一緒に戦う、という根拠は我が国の法律にはないのでございます。

むろん、中国が台湾に侵攻するにあたっては、台湾への補給路を断つために我が国の先島諸島(八重山列島、宮古列島)や尖閣諸島に上陸してくる可能性がありますので、その場合には個別自衛権の発動により日本単独で対処することになりそうです。

米国には日本に先んじて日本の領土を守る義務はありませんし、少なくとも米軍としては台湾防衛のほうを優先するはずです。

さらに言えば、台湾が国連に加盟してない現実を考慮する必要があります。

即ち台湾は、中国からの侵攻を受けた場合、他国(米国や日本)に集団的自衛権の行使を要請することができません。

国連憲章51条には、集団的自衛権の発動について「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には…」とあり、要請する国は国連加盟国でなければならないということです。

従って台湾有事の際、台湾からの要請を受けて米国が出動するとどうなるでしょうか?

それは集団的自衛権行使とは認められず「米国が中国の一部に侵略した」とみなされる可能性すらあります。

ただし、自衛行動とは別に、台湾に武力行使した中国を「平和の破壊者」と認め、これを制裁する「集団安全保障措置」(集団的自衛権ではない)としての軍事制裁は認められます。

なので米国は、台湾有事にあたっては「集団安全保障措置」(米国が主導する有志連合軍)という法的な位置づけで対応することになるのではないでしょうか。

そのとき国連加盟国である我が国は、国連憲章が負っている義務を誠実に果たさねばなりませんので、米国からの要請があれば有志連合軍に参加しなければならないでしょう。

つまり、台湾有事に際して日本が米軍と共同作戦をとることのできる法的根拠は、集団的自衛権に基づくのではなく、集団安全保障措置に基づくものとなりましょう。(我が国の島嶼防衛は個別自衛権で対応)

2015年に第3次安倍内閣が成立させた『平和安全法制』により、「日米台の間で集団的自衛権の行使が可能になった…」という思い込みは明らかなる誤解です。

法的根拠を曖昧にしたまま、対応することのないようにしてほしい。