脱炭素化とエネルギー安全保障のジレンマ

脱炭素化とエネルギー安全保障のジレンマ

昨日に引き続き、エネルギー問題です。

多くの国がエネルギーで揺さぶりをかけるロシアによる影響を受けていますが、とりわけ原油価格の急騰は自動車社会の米国でもガソリン価格が高騰するなどして、秋には中間選挙を控えているバイデン米大統領の頭を悩ませているとのことです。

困り果てたバイデン米大統領は、サウジをはじめ中東産油国の首脳らとの会談に臨んで原油の増産を要請しています。

世界第2位の産出量を誇り、増産余力を持っているサウジなどに増産してもらうことで、どうにかして原油価格を落ち着かせガソリン価格を抑制しようという目論見のようです。

しかしながら産油国側は、コロナ禍による景気後退で一時期、原油価格が急落し大幅な減収に見舞われたことから、原油価格の維持に向けロシアとの産油国同士の結束のほうを重視する構えで、米国の要請に快く応じるかどうかは不透明です。

こうした産油国の増産を求める外交交渉の行方は、我が国のガソリン価格にも影響する話です。

それにしても皮肉なもので、世界は今、エネルギーの脱ロシア化を図るために天然ガスや石油の増産を呼びかけているわけですが、明らかにこれまで進めてきた脱炭素化路線と矛盾します。

例えば、これまで石炭からの脱却を進めてきたドイツでは、ロシアからの天然ガスへの依存度を低下させるため発電に使う天然ガスの使用量を抑えようとしており、一時的に石炭火力発電所を稼働させ必要なエネルギーを補う方針を打ち出しています。

ドイツのエネルギー政策を担うハーベック経済・気候保護相は、環境を重視する『緑の党』の顔として知られていますが、石炭火力の活用について問われると、「まずロシア産の化石燃料から脱却し、その後あらゆる化石燃料から脱却する」と述べて、ともかくも今は脱ロシアを優先せざるを得ないという苦しい胸のうちをのぞかせています。

バイデン米大統領も同様の苦悩を抱えています。

これまで脱化石燃料を政権の看板政策として掲げてきましたが、ロシアとの対抗上、自由や民主主義という価値を重んじる国々との連携を強化しなければならず、そのため日本や欧州がロシアの代替として求めてくる天然ガスなどの増産に応じざるを得ない。

こうしたなか、去る6月末にドイツ・エルマウで開かれたG7サミットの声明には、エネルギーのロシア依存からの脱却を加速させるためLNGの供給の増加が果たす重要な役割が強調され、「この部門への投資が現在の危機に対応するため必要だと認識する」という文言が盛り込まれました。

これは、化石燃料への新たな投資を容認するもので、脱ロシアを一時的に優先するのもやむを得ないという姿勢をG7の合意として打ち出したものです。

とはいえ、実際に石油や天然ガスの開発にあたる企業をめぐっては、増産にむけた投資に及び腰だとみられています。

資源開発には巨額の投資が必要で、その回収には何十年もの時間を要します。

その一方で、今はロシアとの対抗上、化石燃料の使用が許容されても、長期的にみれば世界は脱炭素の方向に向かっていく。

ロシアとウクライナの戦争が集結した後に再び「脱炭素」の旗が振られ、せっかく新設した大規模な施設が「用済みとなるかもしれない…」となれば、企業が巨額の設備投資に踏み切るわけがありません。

どうしても企業投資を促したいのであれば、長期的にも十分に回収可能であることを企業に理解してもらえるよう政府計画を大幅に変更する必要があるでしょうし、投資減税や投資補助金などの政府支援も必要でしょう。

加えて「脱炭素化」を両立したいのであれば、僅かな鉱物資源をエネルギー源としCO2を排出しないスーパー電源を再び稼働させていく以外に選択肢はないように思えます。