問われる国のチェック体制

問われる国のチェック体制

知床観光船の沈没事故から1か月が過ぎました。

次々と明らかになる運行会社の杜撰な安全管理には驚かされるばかりです。

出港基準となる「風速」や「波の高さ」を大きく上回る予報がでていたにもかかわらず出港し、確実な通信手段が一つも無かったことや、陸上から支援する運行管理者がいなかったことなど重大な法令違反に加え、家族への説明会などを通じて社長自身の船の安全についての知識や気質が著しく欠如していたことが明らかになりました。

なぜここまで問題のある事業者の運行を事前に止めることができなかったのか、国の監督体制も厳しく問われるところです。

沈没したKAZU1は、昨年の5月と6月に漂流物への接触と座礁という二つの事故を起こしてけが人も出していました。

これを受けて国は会社の特別監査を行ない、安全確保のための指導を行ったとのことです。

その際、指導で求められたのは、①船と運行管理者との定時連絡を確実に行うこと、②安全統括管理者などは常に連絡をとれるようにすること、③出港の判断が適切だったのか検証できるよう運行記録簿に記録を残すことなどでした。

会社側はこれらを遵守するとした『改善報告書』を提出したとのことです。

その後、10月に国は、知床遊覧船の改善報告が守られているのかどうか、抜き打ちで検査したらしい。

検査の結果、国は「求められているものが実施されていること、および以前よりも安全と法令遵守意識が向上していることが確認できた」として運行を認めたとのことです。

「・・・」

国がお墨付きを与えた「取り組み」は実際には履行されていませんでした。

例えば、「定時連絡」については、事故後に会社側が被害者家族に示した記録から、日頃から怠っていたことが明らかになっています。

安全管理規程では航路の決められたポイント(13か所)で船と運行管理者が定時連絡することになっており、国が強く指導したのはこれが安全管理の基本だからです。

ところが通信記録には時刻が記載されていない空欄がたくさんあったわけです。

斉藤国土交通大臣は18日の国会答弁で「国も去年10月の抜き打ち検査で不備を確認していたが、改めて指示をしただけで検査を通していた」と説明し、「適切ではなかった…」と述べました。

そもそも沈没した観光船は、法律で義務付けられた通信手段すら備えていませんでした。

事故当時、会社のアンテナが壊れ無線を使うことができず、船の衛星携帯電話も故障していました。

船長が持っていた携帯電話は航路の大半が不感地帯であったことから事故時にはつながらなかったとみられています。

事故の三日前に行われた船舶検査において会社は「通じる」と説明していたという。

不感地帯が多いことは携帯電話会社のホームページで簡単に確認できますが、検査人たちは会社側の説明を鵜呑みにしていたわけです。

国が指導した二点目の「連絡体制」に至っては、そもそも連絡する相手すら存在していませんでした。

三点目の「運行記録簿」についても国の指導が甘かったことは前述のとおりです。

会社が国に提出した運行記録簿では、去年7月の15日間のすべての航海で「風速・波高ともに0.5メートル」「視程5000メートル」という同じ数字が記載されていました。

気象データでは連日にわたり風が弱かったことは確かなようですが、国によると知床周辺の他の運行会社の運行記録簿では同じ数字にはなっていないことから、形式的に記録していた疑いがあります。

なのに、当時の検査で国は問題を指摘できませんでした。

斉藤国交相は国会答弁で「さらなる確認や指導が十分にできていなかった」と認めています。

国は再発防止策を検討しているようですが、なによりも重要なのは、検査により悪質な事業者を見つけ出し、すぐに是正させたり退場させたりする仕組みづくりです。

今回の観光船沈没事故は、事業者が安全性を無視してコストの削減を追求した結果であり、それをチェックできなかった国(国土交通省)の責任も大きい。

検査にはヒトもカネも時間も必要でしょう。

だからといって検査を民間事業者に丸投げするようなことはしないでもらいたい。

緊縮財政至上主義の今の政府ならやりそうで怖い。