在米主権の民

在米主権の民

1994年から2008年までの毎年、米国政府は日本政府に対して『年次改革要望書』なる政策要望を提出していたのをご存知でしょうか?

正式名称は「Annual Reform Recommendations from the Government of the United States to the Government of Japan under the U.S.-Japan Regulatory Reform and Competition Policy Initiative」です。

訳すと、「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく米国政府から日本政府への毎年の改革への要望」となりますでしょうか。

ただ実際には、要望書というより命令書だった。

例えば、年次改革要望書で米国政府は「人材派遣の自由化」を日本政府に要望していました。

その後、日本政府は米国政府の要望に従って労働法や派遣業法を改正したことで、今日のように人材派遣業が盛んとなり正規雇用は減り、非正規雇用が増えていきました。

これにより、外資を含めたグローバル企業の人件費が引き下げられ、その分、株主利益を最大化することに成功したわけです。

こうした事例は枚挙に暇がない。

年次改革要望書の要求通りに行った「大規模店舗立地法の廃止」により、今や多くの商店街がシャッター通り商店街と化しています。

因みに、年次改革要望書の前身である『日米構造協議』の規制緩和政策により、米国発祥の玩具量販店「トイザらス」が日本に出店するところとなって、我が国の「街のオモチャ屋さん」が商店街から姿を消したことは言うまでもありません。

そして、小泉内閣時代に郵政3事業が民営化されたのもまた、年次改革要望書に忠実に従っただけの話です。

米国およびウォール街にとって、郵便貯金なる国営銀行、簡保なる国営保険会社の存在は疎ましかったわけですが、小泉改革のお陰で、この二つを民間金融機関にすることが叶ったわけです。

当時、小泉総理は「郵政を民営化すれば、民間活力が活かされて郵便料金も安くなります」と言っていましたが、ご承知のとおり民営化以降、郵便料金は上がっています。

やがては、はがき一枚を郵送するのに500円くらい取られることになりそうです。

また、小泉内閣時代の2006年には「保険業法の改正」が施行されていますが、これも年次改革要望書に盛り込まれていた「米国政府からの要求」の結果であり、小泉改革による市場原理化政策の一環でした。

これにより、日本国民の誰もが安い掛け金で加入することができた「共済」が成り立たなくなっていきました。

共済は民間保険とは異なり、相互扶助のシステムです。

つまり共済は「入るもの」であるのに対し、保険は「買うもの(金融商品)」になります。

共済を保険のように「買うもの」にしてしまえば、共済がもつ相互扶助の精神など成り立たなくなってしまうのは当然です。

結果、法改正以降、共済金額も契約件数も年々減っています。

さて、年次改革要望書は2008年をもって廃止されました。

「年次改革要望書」という名称があまりにもあからさまな外圧行為に聞こえるので、2011年以降は名前を変えて同じことが行われています。

それが「日米経済調和対話」です。

やはりここでも米国政府は日本政府に対して、例えば「食品の残留農薬基準の緩和」や「残留農薬基準を見直し」などを要求しています。

これに応えるように日本政府は、①種子法を廃止(公共の種を無くす)、②種の無断自家採種の禁止(グローバル種子企業の種を買わないと農家は生産できない)、③遺伝子組み換えでない「non−GM」表示の実質禁止(遺伝子組み換え食品の販拡促進)を行っています。

しかも米国ではGM種子とセットのグリホサートで発がんしたとして、グローバル種子企業に多額の賠償判決が多数でているにもかかわらず、グリホサートの輸入穀物残留基準値を大幅に緩和しています。

つまり日本政府は「日本人の命の基準は、米国企業の輸出量と米国民の消費量で決まる」と言っているわけです。

なぜ日本国民はもっと怒らないのか…