情報戦を俯瞰する

情報戦を俯瞰する

未だ米国の政財界に大きな影響力をもっているであろうヘンリー・キッシンジャーは、かつて次のように述べています。

「食料を押さえればその国の人民を手に入れることができ、金融を押さえればその国家全体を手に入れることができ、エネルギーを押さえれば世界を手に入れることができる」

要するに、食料、金融、エネルギーは国家運営の生命線である、と言うわけです。

いかにもキッシンジャーらしい言葉ですが、残念ながら我が日本国はその生命線たる食料とエネルギーの多くを外国に依存しています。

ただ、エネルギー(天然資源)はハードウェアの問題なので仕方がないにしても、食料の他国依存は明らかに愚政の結果です。

それはそれとして、「金融を押さえれば…」と言うところが、まさにキッシンジャーをキッシンジャーたらしめている所以だと思います。

金融と言われても今ひとつピンとこない人もおられましょうが、キッシンジャーが言う「金融」とは、それ即ち「情報」のことと理解したほうがいい。

金融は情報そのものです。

情報を押さえられてしまったら、もはやその国の国民は奴隷に等しい。

どんなに「これが民意だ!」と思っていても、所詮は操られた民意に過ぎない。

例えば、目下進行中のウクライナ問題に関するコメントの多くが、そのことを実感させます。

政治であれ、戦争であれ、その本質は情報戦です。

いわば、政治は血を流さない情報戦であり、戦争は血を流す情報戦です。

しかも昨今は、軍事と非軍事の境界線が意図的に曖昧にされるハイブリット戦争の時代です。

情報戦そのものが複雑さを増しており、真実を見極めることの難しさを痛感します。

日々、テレビや新聞やネットから情報を入手している多くの日本国民は、「米国の対ロシア制裁を多くの国々(国際社会)が支持している」と思い込んでいますが、実際には制裁を拒否している国の数のほうが多い。

対ロシア制裁を支持した国々は、イギリス、オーストラリア、EU、日本、台湾、韓国、ニュージーランド、カナダ、スイス、チェコですが、一方、制裁を拒否している国は、ドイツ、中国、インド、ブラジル、サウジ、UAE、トルコ、エジプト、イラン、セルビア、アルゼンチン、エルサルバドル、ハンガリー、ボリビア、ウルグアイ、メキシコとなります。

あるいは紛争前、ロシアとの国境付近に10万もの兵力を集中し軍事的圧力を高めたのはウクライナ(ゼレンスキー)側が先です。

その対抗措置としてロシア(プーチン)も国境付近に軍を展開したに過ぎない。

なお、ウクライナ政府ネオナチ隊によるロシア系住民の虐殺についても国連人権高等弁務官事務所のレポートで報告されています。

因みに、ソ連が崩壊したとき、米国はNATOをそれ以上東方へは拡大しないことをロシアと約束しています。

にもかかわらず、この30年間、米国はあからさまにNATOを東方に拡大しようとしてきました。

その意味では、地政学的にロシアを追い詰めたのは米国です。

しかも米国はオバマ政権時代から、ウクライナに親米政権をつくるための諜報工作を行っています。

それを指揮してきたビクトリア・ヌーランドという米国国務次官補を、バイデン政権は再び国務次官補につけたわけですからプーチン大統領を刺激して当然です。

これらの事実を日本のメディアは決して伝えない。

ワイドショーを見ているかぎり「絶対悪のロシア、被害国のウクライナ」という単純化された構図しかインプットされません。

しかしながら、情報戦を俯瞰し丁寧に事実を手繰っていくと全く異なった構図が見えてきます。

約束破りのNATOの東方拡大、ウクライナでの新米政権の樹立、ゼレンスキー大統領によるミンスク合意の一方的な破棄、ウクライナ東部におけるロシア系住民への虐殺行為等々、プーチン大統領にまったく理がないわけでもない。

今回の紛争は、プーチン政権(ロシア)を潰して再び民営化ビジネスで儲けたいウォール街が仕掛けた結果だとも言われています。

そういえば、クーデターで失脚したウクライナのヤヌコビッチ元大統領は、その政権時代、IMFから「電力産業とエネルギー産業の民営化」を融資条件として突きつけられていました。

インフラを民営化すると公共料金が跳ね上がりサービスが低下することを知っていたヤヌコビッチ元大統領はそれを拒否しました。

米国及びその背景にいるウォール街はIMFをつかって世界中の国に国営インフラの民営化を進めてきたわけですが、ヤヌコビッチ元大統領はそれに「No!」と言ったわけです。

その後、なぜかクーデターが起こり、彼は失脚(亡命)することになりました。

考えてみると、今回、ロシアがウクライナに侵攻したことにより、結果としてEUのロシアへのエネルギー依存は断ち切られ、NATOの必要性が一層高まり、ウォール街では軍需産業の株価も上がった。

これまで米国が望んできたことが次々と塩梅良く具現化されています。

私の個人的な憶測に過ぎませんが、もしも米国とウォール街が、プーチン大統領を侵攻せざるを得ないところまで追い詰めたのだとすれば、ウクライナ国民は米国とウォール街の生贄にされたことになります。

むろん、真相はわかりません。

少なくとも、日本のメディアが垂れ流す一方的な情報だけを鵜呑みにすることはできない。