国に歴史あり…

国に歴史あり…

ロシアによるウクライナ侵攻について、あるタレントさんがラジオ番組で「無駄死にしないように、ウクライナは直ちに降伏したほうがいい…」と発言し、かなりの顰蹙を買ったというニュースをみました。

しかも日本在住のウクライナ人に対し、それを直接言い放ったというから驚きです。

大東亜戦争に敗北した国に生まれ育った私たち日本国民は、占領政策に基づく教育(日本悪玉史観)を植え付けられてきました。

もちろん、占領政策(戦後教育)に洗脳されることのなかった立派な日本国民も大勢おられます。

一方、戦後教育の影響をもろに受け、ただれるような平和のなかで「主権国家とは何か?」「国民国家における国民とは何なのか?」についての理解に乏しい日本国民も少なからずおられます。

もしかするとその種の人たちは「平和とは何か?」すらをも理解していない可能性もあるのですが、おそらく冒頭のタレントさんはそのお一人でしょう。

それに、彼がウクライナの歴史を知ったうえで発言したとは思えない。

歴史を知らずに発言してしまうと、とかく恥をかくことが多い。

さて、ウクライナ人は民族的には東スラブ人です。

いまから1000年以上も前(9世紀ごろ)の話になりますが、東スラブ人たちは、現在のロシア・ウクライナ・ベラルーシ周辺に国をつくるにあたり、ノルウェーあたりでバイキングをしていたルス族のリューリックという人物を招いて国を建国しました。

それがノブゴロド国です。

やがて、リューリックの親族たちがコンスタンチノープルの方まで勢力を広げて、キエフを中心とした大公国をつくります。

それがキエフ大公国です。

因みに、ルス族の「ルス」こそが「ルース」「ルーシ」「ロシア」の語源です。

要するに、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの源流はキエフ大公国にあるわけです。

その後、1240年には、モンゴル帝国がキエフを攻撃し陥落させてしまいます。

結果、現在のロシア地域には、モンゴル帝国の支配下のもとで大公が国を治める「大公国」ができたのですが、ウクライナ地域は別の歴史をたどることになります。

ポーランドやリトアニアがヨーロッパの強国となったことで、ウクライナやベラルーシ、要するに東スラブ人たちはポーランドやリトアニアの支配下に入ります。

その後、時代は下って1492年にコロンブスがアメリカ大陸に到達したことがウクライナに大きな影響を及ぼします。

まず、スペイン人がアメリカ大陸の銀を大量にヨーロッパに持ち込み、そのことで西ヨーロッパの経済が急成長します。

自然、経済成長は人口を増やしました。

そして西ヨーロッパの人口増が穀物不足をもたらしたのです。

ご承知のとおり、ウクライナは古代ギリシャの時代から穀倉地帯です。

因みにペロポネソス戦争の際、穀物をウクライナに依存していたアテネは、ウクライナからの穀物シーレーンをスパルタに封鎖されたことで敗北しています。

それはともかく、「カネになる…」と考えたポーランド・リトアニアの貴族たちは、穀倉地帯であるウクライナの農民たちを農奴化していきました。

そうした農奴の犠牲のもとに、ポーランド・リトアニアの貴族たちは優雅な生活をおくっていたといいます。

やがて、ウクライナの農民たちは武装し、キリスト教徒を解放するためとしてクリミア・ハン国やオスマン帝国を襲撃するようになります。

その武装農民こそが、コサック(ウクライナ・コサック)です。

ウクライナ国歌には、自分たちウクライナ人は「コサックの子孫」である、とあります。

その後、北方戦争やら2つの世界大戦やら紆余曲折を経て、ウクライナはロシア(ソ連)の支配下に入ります。

結局、ウクライナが独立を果たしたのは、1991年にソ連が崩壊したときです。

なんと、ウクライナは独立を回復するために280年もかかったのです。

最初はポーランド・リトアニアからの独立、後半はロシアからの独立を果たそうとして彼ら彼女らは必死に闘い続けてきたのです。

280年をかけて独立を果たした国が、再びロシアから軍事侵攻を受け主権を奪われようとしているのです。

7年ばかりの占領期間を経て、その後は実質的に米国の属国と化してきたことに何の疑問も持たず、経済的豊かさと平和を「Noリスク」で貪り尽くしてきた戦後日本人とウクライナ人とでは歴史のもつ意味が全く異なるのです。

冒頭のタレントさんは、おそらく「ホロドモール」のことも知らないでしょう。

ホロドモールとは、1932年から翌年にかけて現在のウクライナ地域で起きた「人工的大飢饉」です。

この人工的大飢饉は、当時のソ連最高指導者スターリンによって計画されたジェノサイドだとされています。

ホロドモールによって300万人以上のウクライナ人が犠牲になっています。

むろん、未だウクライナ国民には記憶に新しいに違いない。