ウクライナ危機とエネルギー問題

ウクライナ危機とエネルギー問題

ウクライナ情勢の緊迫化を受けて、日本政府は液化天然ガス(LNG)の一部をヨーロッパに融通することを決めました。

ヨーロッパではエネルギーの供給不安が高まっているようです。

ロシアからの原油や天然ガスの供給が止まれば深刻なエネルギー危機に直面する恐れがあります。

既にヨーロッパでは、エネルギー価格が上昇しています。

とりわけエネルギーのロシア依存度が高いドイツでは電気料金が跳ね上がっており、去年11月のエネルギー価格は前の月よりも22%も増え、消費者物価指数も前年同月比で5.2%の上昇です。

天然ガスの価格高騰は新型コロナの感染防止のための規制が緩和され経済活動が再開したことに加えて、石炭に変わるエネルギーとして天然ガスの需要が高まっていること、それに去年の天候不順により風力発電量が伸びなかったことなどが背景にあり、今年も大幅な値上がりが予想されます。

そこへウクライナをめぐる緊張が追い打ちを掛けています。

EUは天然ガスの4割をロシアから輸入しています。

輸送コストの低いパイプラインで各国に供給され、ドイツは5割以上をロシアに依存しています。

去年9月にはバルト海経由でロシアとドイツを直接結ぶ2つ目のパイプライン「ノルドストリーム2」が完成しました。

これにより、ロシアからのガス輸入量が倍増することが見込まれていますが、ロシアの影響力が強まることを警戒する米国の反対、及びウクライナ情勢の悪化に伴って稼働開始の目処は立っていません。

2月7日、ホワイトハウスで行われた米独首脳会談後の記者会見で、バイデン米大統領は「ロシアがウクライナに侵攻すればノルドストリーム2の計画はなくなるだろう」と述べ、ロシアへの制裁措置としてパイプラインが稼働できなくなる可能性を示唆しました。

これに対しショルツ独首相は「米国と一致した行動をとる…」と述べたもののパイプラインについては明言を避けました。

ロシアとウクライナの緊張が高まれば、その2ヶ国以外で最も影響を受けるのはドイツです。

脱原発…、そして2045年までの脱炭素社会…の実現を目指すドイツにとって、過渡期のエネルギーとして天然ガスは欠かせず、冷戦時代から続くロシアからのガス輸入を簡単に止めることはできないのでしょう。

ドイツは去年の大晦日、国内の3基の原子炉が運転を停止しました。

残る3基も今年中に停止し、原子力発電に終止符を打とうとしています。

ドイツが脱原発に踏み切ったのは、今から20年前のことです。

当時のシュレーダー政権のもとで原子力法が改正され、原発の新規建設を禁止するとともに既存の19の原発を全て段階的に廃止することを決めました。

しかしながら現実の厳しさを知ってか、2005年になってメルケル政権が稼働延長を決めたものの、2011年の東日本大震災による福島第一原発の事故を目の当たりしたことで方針は再び変更され「2022年までに原発全廃」を決めたわけです。

当時、メルケル首相は「日本ほど高い技術を持っている国でも事故を防げなかったのだから、ドイツだって責任を持てない」みたいなことを言っていましたが、「高い技術でも防げなかった…」のではなく、津波が来るという想定が予めあったにもかかわらず、費用をケチった東電と国がその対策を怠っていただけです。

ドイツは「脱原発により再生可能エネルギーの比率を増やした」と豪語していますが、その分、ロシアへの天然ガス依存度は高まっていますし、発電量の7割を原発に依存するフランスから電気を購入している始末です。

むろん、天候不順に影響を受ける再生可能エネルギーは、いざというときにあてにならない。

今回のウクライナ危機に伴い、日本に天然ガスの融通を求めているのは何よりもの証左です。

エネルギー不足と価格の高騰は世界経済にも混乱を招きかねないだけに、とりわけヨーロッパにおいてはロシア産に変わるエネルギーの確保が急務です。

2月7日、米国とEUはエネルギーに関する協議を行い、ウクライナ危機に対処するためにEUの天然ガスの調達先を多様化させ、ロシア依存からの脱却を目指すことで一致しました。

日本政府が液化天然ガスの一部をヨーロッパに融通することを決めたのもその一環です。

はて、ご多分に漏れず「脱炭素社会」を叫びつつも原発を止めている我が国に、他人様に融通するほどの余裕があるのでしょうか。