過去のものではなかった東西冷戦

過去のものではなかった東西冷戦

9万人を超えるロシア軍がウクライナとの国境に集結し、ロシアと欧米の緊張が高まっています。

バイデン米大統領とプーチン露大統領の両首脳は日本時間の8日未明にオンラインで会談を行い、とりあえず緊張緩和のために外交的に対話を続けていくことでは合意した模様です。

しかし、ウクライナをめぐる双方の原則的な対立は依然として残っています。

ロシア、ウクライナ、ベラルーシの3首脳がソビエト連邦の消滅を宣言してから、奇しくもちょうど30年が経ちます。

なぜ今、ウクライナをめぐりロシアと米国の対立が深まっているのか?

ここにもまた、米国を覇権国とした一国秩序安保体制の弱体化と終焉が関係していると言わざるを得ない。

オンライン会談の一部をテレビニュースで見ましたが、一見なごやかな雰囲気ながらも会談の前から米国とロシアのあいだでは激しい情報戦が行われていました。

欧米の有力紙は、米国とウクライナの諜報機関の情報分析として「ロシアは来年1月の終わりから2月のはじめにかけてウクライナに大規模な軍事侵攻を行う計画がある」と報じました。

それも、ロシアが併合したクリミア、ウクライナ東部、さらには北のベラルーシから17万人を超える兵力で一斉にウクライナに侵攻するという具体的な報道でした。

一方のロシアは「そんな侵攻計画などは全くのフェイクだ」と否定するとともに、米国の挑発だと反発していました。

それでも米国は「9万4000人ものロシア軍がウクライナ国境に集結していることから、ウクライナへ侵攻する可能性は高い」と同盟国に警告しています。

部隊の展開自体は、ロシアも否定はしていません。

プーチン露大統領としてもウクライナ国境への軍を展開することで、力を背景に米国を交渉のテーブルに着かせたいという思惑があったのではないでしょうか。

オンライン会談でバイデン米大統領は「もしもロシアがウクライナに軍事侵攻した場合、前例のない厳しい経済制裁を科す」と脅し返し、それなりのコストをロシアに支払わせるとしています。

米国は経済制裁の詳細を明らかにしていませんが、ロシアを国際決済システムSWIFTから除外する程度のことのようです。

なおバイデン米大統領は、もしもロシアが軍事侵攻した場合にはウクライナに武器を供与するほか、中東欧のNATO加盟国の防衛力を強化するとプーチン露大統領に脅しをかけています。

それに対してプーチン露大統領は「NATOこそが黒海やロシア国境付近で挑発行為を繰り返し、ロシアの安全保障を脅かしている」と反論しています。

そして「侵攻計画など存在しないのに、いったい何のための経済制裁なのだ」と切り返したということです。

なおプーチン露大統領は「デットライン」という言葉を使い、ロシアとしては容認できないラインを明確にしました。

そのラインとは、①ウクライナのNATO加盟、②これ以上、NATOの兵器システムがロシア国境に近づかないことの二つです。

プーチン露大統領としては法的拘束力のある合意によってこうした可能性を排除したいらしく、それをバイデン米大統領に要求しつつ、さらには「米国は数千キロも離れた我が(ロシア)軍の部隊を懸念しているようであるが、我々にとってはNATO拡大は現実に我が国の安全保障の問題なのだ」と述べロシア側の懸念を強調したらしい。

それに対しバイデン米大統領は「ウクライナにはNATO加盟を求める権利がある」と応じ、プーチン露大統領の言うレッドラインを受け入れない考えを鮮明にしたことから、両国の緊張緩和にむけた道筋は示されていません。

これまで新自由主義(グローバリズム)を主導してきた米国ですが、その新自由主義ゆえに経済面においても軍事面においても国力を相対的に低下させるに至ってしまい、今や国際秩序を不安定化させています。

30年前、ソビエト連邦が崩壊し冷戦が集結した際、「東西対立の歴史は永久に過去のものとなり歴史は終わった」とさえ言われていましたが、しかしながら現在のロシアとウクライナ問題がそうであるように壁は東に移り、対立の歴史は再現しています。

というより、米ソの両超大国が並び立った冷戦時代よりも、その不安定さという点では米露が衝突する危険性はより強まっています。