北朝鮮がミサイルを発射し続ける理由

北朝鮮がミサイルを発射し続ける理由

ようやく緊急事態宣言が解除されました。

もしも我が国が他の先進国並みにワクチン接種を開始していたならば、宣言がこんなにも長期化することはなかったと思います。

加えて、政府がPB黒字化目標を堅持しているため、則ち宣言中の国民への補償が不十分であったがために、宣言明けの「リバウンド消費」の拡大も期待できず厳しい状況が続きます。

さて、今日は北朝鮮のミサイル問題について論じたいと思います。

一昨日の9月29日、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は「極超音速ミサイル火星8の発射実験を実施した」と報じました。

これはおそらく、その前日の28日に日本海にむけて発射された短距離ミサイルのことを指しているのだと推察します。

極超音速ミサイルは、その名のとおり物凄い速さで飛ぶわけですが、宇宙ロケットや弾道ミサイルとは異なって低く変則的な軌道を描いて飛んでいくのが特徴です。

その速さは音の速さの5倍(マッハ5)を超えるという。

こんなスピードで長時間飛ぶために探知や迎撃するのが実に難しいわけです。

極超音速ミサイルは既にロシアが実戦配備しており、米国や中国も開発を進めています。

先日、ある市民から「そもそも北朝鮮は、なぜこんなにもよくミサイルを発射するのか?」という質問を頂きましたので、以下、私なりの解釈を紹介します。

たしかに北朝鮮は過去40年間で約150発のミサイルを発射しています。

こうした武力示威行為と核実験によって北朝鮮は国連による厳しい制裁を受けてきました。

それでもミサイルを発射し続けなければならない、彼の国なりの理由があります。

一つ目の理由としては、国内の引き締めが考えられます。

とくに現在のように厳しい状況になると、それが顕著です。

北朝鮮は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために中国との国境を閉鎖しており、そのことが国内経済に大打撃を与えているようです。

それも、金総書記が公に謝罪するほどです。

こうしたなか軍事能力の拡張を誇示することが国内支持の拡大に資すると考えているようです。

なるほど軍事能力の脆弱化は金政権の脆弱化そのものを意味し、政権転覆の火種になりかねない。

もう一つの理由は、防衛力の強化とともに国際政治上の発言権を獲得するためです。

例えば、停戦中とはいえ北朝鮮と韓国は未だ戦争状態にあります。

ご承知のとおり韓国は核兵器を持っていませんが、駐留している米国は核保有国です。

こうした安全協定を、いわゆる「核の傘」と言います。

北朝鮮にしてみれば「米韓軍事演習は対北朝鮮への戦争準備だ」というわけです。

その対抗措置の一つとしてミサイル発射を繰り返し、なお国際政治での発言権を確保しようとしています。

現に金総書記は「米国が核兵器を振りかざして戦争を起こそうとしても、我々が強力な抑止力を持った今、米国は何もできないだろう」と豪語しています。

しかしながら、米国が北朝鮮に軍事攻撃をしかけないのは、北朝鮮が核兵器(それを搭載するミサイルを含む)保有しているからではありません。

ほかに理由があります。

それに、「核兵器の使用」をちらつかせることで外交力を高めようとする北朝鮮のようなやり方は、国際政治上、実は最低な手法なのです。

核をちらつかせるというのは、要するに「我が国は通常兵器同士の戦いでは太刀打ちできません」ということを国際社会に宣言しているにほかならないからです。

そのことは北朝鮮も暗に認めています。

認めているからこそ「核」とそれを運搬可能にする「ミサイル」の保有を誇示しているわけです。

例えば、中国の通常兵力が弱小だったころの1995年、台湾問題をめぐって米国との軍事的緊張が高まったことがあります。

いわゆる第三次台湾海峡危機です。

中国は「台湾独立を促進する選挙が実施されるなら中国に対する宣戦布告とみなす」と脅し、さらに中国は台湾海峡一体をミサイル演習のミサイル着弾ポイントに設定して事実上、台湾海峡を封鎖しました。

台湾海峡をすべてミサイルの着弾実験場とすることで漁船や貨物船など一切通行ができなくなり、事実上、軍事力による海上封鎖を中国が実施したのです。

この行動に対し、米国が激烈な反応を示しました。

まずは「海上封鎖を即刻無効にする」と発表し、ベトナム戦争以来の最大戦力となる空母打撃群2軍団に加え、水上戦闘群、さらには最新戦闘機を台湾周辺に即時に派遣しました。

すると中国は「米国は台湾情勢に注視している場合ではない。西海岸を心配したほうがいい」と警告を発します。

要するに「もしも米国が台湾情勢に介入するなら、西海岸にむけてミサイルを打ち込むぞ!」と、核をちらつかせて脅しをかけたわけです。

当時、中国の軍事力は今とは異なり脆弱で、米国に対抗するには核兵器をちらつかせる方法しかなかったのです。

一方、米国は中国による核の脅しを完全に無視。

海上封鎖された台湾海峡にむかっていた空母打撃群2ユニットをなんのためらいなく海峡に侵入させました。

さらに敵戦闘機を発見する哨戒機を飛ばし、万が一に備えてミサイル迎撃システムを稼働、最新の戦闘機を中国の国境近くまで飛ばして挑発するなどして中国を威嚇しました。

中国からみれば台湾海峡は演習中であり、ミサイル着弾ポイントになっています。

まかりまちがって海峡にいる米軍に実質的な被害がでるようなことになれば、それ則ち米国に対する宣戦布告とみなされ、展開していた空母打撃群に沿岸部分を潰されたのち全面戦争に発展することになったことでしょう。

本来であれば中国はこの状況を打破するために空母打撃群や戦闘機を海峡に派遣して米軍を威嚇したいところですが、米国の通常兵力があまりにも強大であったために何も手を打つことができませんでした。

結局、中国軍は米国の通常兵力による威嚇に絶えきれず、演習を中止し撤退することになり海峡閉鎖は失敗に終わりました。

たった二つの空母打撃群に、中国は戦わずして敗北したのです。

このときの屈辱をバネに、その後の中国は通常兵力の強化をはかり今や我が国の自衛隊の能力をはるかに超えた軍事力をもつに至ったのです。

要するに、核兵器を保有するだけでは軍事力は強化できず、外交交渉を有利に運ぶこともできない、ということです。

ゴルフバックのなかにドライバー(1w)しか入っていなのではゴルフにならないのと同様です。

逆に言えば、だからこそ北朝鮮はひたすらミサイル発射を繰り返すことしかできないのでしょう。

通常兵力を強化するほどの国力がないからです。