未成熟な改憲論議

未成熟な改憲論議

きのう告示された自民党総裁選(29日投開票)に出馬する岸田文雄前政調会長は、総裁選に勝利して首相に就任した場合には自身の総裁任期中に憲法改正を目指す、という考えを示されました。

さて、現行憲法についての私の考えは次のとおりです。

現行憲法は我が国に主権の存しない占領下に他国の手によって制定されたもの(占領憲法)であることから、これをいったん無効とし、改めて日本国民の主権のもとで明治憲法を改正するべきです。

その新憲法の条文が、例え現行憲法と全く同じであったとしても、手続きとしてそうした措置をとることが何よりも必要です。

なぜなら、マッカーサーがつくった憲法のもとで改正しても、所詮それは孫悟空(日本)がお釈迦様(マッカーサー)の手の平の上に乗っかっているようなもので、むしろ占領憲法にレジテマシーを与えてしまうことになるからです。

ゆえに私は「現行(占領)憲法無効論」なのでございます。

それに、敗戦から76年を経てもなお、未だ精神的占領下にある我が国では「戦後日本は米国に負けたことによって民主化され豊かな国になった…」と、本気で思い込んでいる人たちが政治家を含めて多い。

こうした状況下で憲法改正なんてやってしまったら、ろくな憲法などできるはずもないので、いずれにしても私は現時点での憲法改正には消極的です。

しかし岸田さんは改正するという。

私の勝手な印象ですが、岸田さんがそれほど憲法改正についての深い理解と強い思い入れがあるとは思えず、おそらくは選挙対策上のアドバルーンではないでしょうか。

則ち、リベラルな河野太郎氏との差別化をはかり、高市早苗氏に流れそうな保守票を取り込む、という集票戦術上の思惑から「憲法改正」の必要性を説いているのかもしれません。

戦後、現行憲法は一回も改正されず「解釈の変更」によって、その時々の政治課題に対処してきました。

これも私は政治の一つの知恵だと思っています。

「解釈変更なんて、けしからんっ…」という人もおられましょう。

しかしながら、現行憲法はもともと柔軟に条文解釈を変更していく「英米法」でつくられています。

一方、解釈変更を認めず、その都度必ず憲法を改正し条文を変える、という条文主義は「大陸法」の考え方です。

現にドイツやフランスなどの大陸法を採用する国では常に憲法は改正されています。

翻って英米法を採用する国、例えばアメリカでは憲法の改正回数は大陸法を採用する国に比べて圧倒的に少ないし、イギリスに至っては憲法すらない。

その意味で戦後日本の憲法論議については、英米法でできた憲法を大陸法的に解釈しようとするところに矛盾が生じている点も否めません。

因みに現行憲法については多くの誤解があります。

その一つに、例えば「憲法改正…」と言うと必ず「戦争放棄」を謳った9条の問題が取り沙汰されますが、戦争を放棄しているのは何も日本だけではありません。

米、英、仏、独、伊、加などのG7と呼ばれる国々もまた、日本と同様に戦争を放棄する『不戦条約』(昭和3年)に加盟調印しています。

「あの米国が?」と思われるかもしれませんが、ここで問題になるのは「戦争」の定義です。

そして日本国憲法の第9条は、実はその『不戦条約』のコピペなんです。

憲法を見直していくと、こうした事実を知ることができます。

誰が総理になるのかはわかりませんが、この総裁選が、一人でも多くの国民が「憲法」について考える良き機会となってくれることを切に望みます。