1月29日付けのブログでもご紹介しましたが、宮城県涌谷町を流れる江合川に架かる涌谷大橋で、耐震補強工事の最中に橋脚上部の張り出し部が折損する事故が発生しました。
事故が起きたのは、橋脚上部の幅を広げて落橋を防ぐ「縁端拡幅」と呼ばれる耐震補強工事の作業中でした。
橋脚上部のコンクリートを削り、鉄筋を設置して新たにコンクリートを打設する工程の途中で、歩道を支えていた張り出し部(ブラケット)が破断したものです。
その後の取材により、この橋では歩道を増設した際、張り出し部の端から反対側の端へPC鋼線を通し、橋脚上部のコンクリート内で折り返す特殊な構造が採用されていた可能性が高いことが分かりました。
さらに重要なのは、工事を発注した宮城県が、このPC鋼線の存在を事前に把握していなかったという点です。
PC鋼線はコンクリートに圧縮力を与え、張り出し構造の破断を防ぐ重要な部材です。
もしその緊張が失われれば、張り出し部は支えを失い破断に至る可能性があります。
今回の事故も、補強工事の過程でPC鋼線の緊張状態が変化し、構造の安定性が失われた可能性が指摘されています。
ここで注目すべきは、工事の技術的な是非だけではないことです。
橋の構造を成立させていた重要な要素が、発注者側に十分把握されていなかったという事実です。
涌谷大橋は1957年に完成し、1969年に歩道が増設されました。
今回問題となった張り出し構造は、その際に設けられたものとみられます。
半世紀以上前の改修の詳細が、現在の管理者に十分引き継がれていなかった可能性があります。
これは単なる資料管理の問題ではありません。
日本のインフラ維持管理制度そのものが、「構造物は図面どおり存在している」という前提の上に成り立っているという問題を示しています。
川崎市も同じ問題を抱えています。
目下、多摩区の登戸陸橋の改修工事が休止しているのもそのためです。
橋梁の補修や耐震補強は、既存図面を前提に設計されます。
しかし昭和期に建設された多くのインフラでは、図面が残っていない場合や、改修内容が十分記録されていない場合も少なくありません。
長い年月の中で、構造物は図面とは異なる姿になっていることがあります。
その結果、補修工事は図面と現物のずれを抱えたまま進められ、工事の途中で想定外の構造が見つかることもあります。
今回の事故は、その問題を極端な形で示した事例と言えるでしょう。
日本では今、高度経済成長期に整備されたインフラが一斉に老朽化の時期を迎えています。
政府や自治体は架け替えではなく長寿命化を基本方針としていますが、その政策は構造物の情報が正確に把握されていることが前提になります。
もし図面と現物の間に隔たりがあるのであれば、補修工事は常に見えないリスクを抱えることになります。
今回の事故が示しているのは、老朽化以上に、構造情報そのものが失われつつあるという問題です。
インフラはコンクリートや鋼材だけで成り立つものではありません。
図面や設計記録といった情報もまた、構造物の一部です。
その情報が欠けたまま維持管理を続ければ、補修工事そのものが新たなリスクを生む可能性があります。
構造物は必ずしも図面どおり存在しているとは限らない。
その現実を前提に制度を見直すことが、これからのインフラ管理に求められます。


