労働会館改修工事の泥沼化――追加資料が示す本質

労働会館改修工事の泥沼化――追加資料が示す本質

川崎市立労働会館の改修工事は、当初の想定から大きく外れ、工期の長期化と工事費の大幅な増額を余儀なくされています。

令和7年11月の市議会文教委員会では、工期が当初計画より13か月延長される見込みであること、あわせて工事費等が約27.6億円増額されることが報告されました。

これは、単なる物価高や一時的な工程調整によるものではありません。

改修工事を進める中で、設計図と実際の建物との間に多数の不一致が見つかり、想定していなかった補修・再設計・再検討が連鎖的に発生していることが主な要因です。

さらに今回(令和8年1月6日)、川崎市から提出された追加資料では、こうした状況がすでに収束段階に入っているわけではなく、今後も工期延長や工事費増額が生じ得る可能性が明示されました。

一見すると、事態の整理や見通しを示した説明のようにも見えますが、内容を冷静に読み解くと、むしろ逆です。

問題が解消に向かっていることではなく、不確実性が構造的に続いていることが示されています。

すなわち、労働会館の改修工事は現在、先の見通しを完全には描けない「泥沼化した局面」に置かれています。

以下では、この追加資料が何を示しているのかを、改めて整理していきます。

この追加資料は、労働会館改修が直面している問題が一時的な混乱ではなく、構造的制約によって長期化・深刻化していることを、行政自らが認めた文書にほかなりません。

市は、専門機関による評価として「構造体の耐用年数は77年」「適切な維持管理を行えば今後60年程度の利用が可能」と説明しています。

しかし、ここで語られているのは材料としての建物がもつかどうかという話であって、改修工事という行為が成立するかどうかとは、まったく別の次元の問題です。

耐用年数の評価は、「この建物はまだ使えるか」という問いへの答えです。

一方で、今回の問題は、「この建物を、想定どおりに改修できるのか」という問いにあります。

そして追加資料は、その問いに対して、極めて重い事実を示しています。

各階ごとに、設備配管の貫通孔位置を検討し、図面を作成し、現地で鉄筋探査を行い、問題があれば再検討する。

このプロセスに、1フロアあたり約6か月を要していることが明記されています。

これは、通常の改修工事ではありません。

現場を解体し、掘り、確認しながらでなければ、はじめて「建物がどうなっているか」を把握できない工事です。

つまり、いま行われているのは「改修」ではなく、竣工図が存在しないために、現地調査そのものが設計行為になってしまっている状態なのです。

追加資料には、今後も変更検討が発生する可能性、工事費が増額する可能性、インフレスライドによるさらなる増額の可能性が明記されています。

これは、「すでに把握できている問題」だけでなく、今後も新たな問題が発生し得ることを、行政自身が否定できていないことを意味します。

根本問題は、竣工図がないことです。

つまり、現実の建物を正確に把握するための情報基盤が欠落している。

この一点が、
――工程を不確実なものにし
――費用を予測不能にし
――判断を後追いにし続ける
という連鎖を生み出しています。

いくら「建物はまだ使える」と説明しても、「どう使えるのか」「どこまで手を入れられるのか」が分からない状態では、戦略的な意思決定は不可能です。

ここで改めて確認すべきなのは、この問題が施工者の努力不足や現場対応の巧拙によるものではない、という点です。

問われるべきなのは、「どこまで延びるのか」「いくら増えるのか」ではありません。

なぜ、この構造制約を抱えたまま改修という選択をしたのか。

そして、同じ前提誤認が、他の公共施設で繰り返されていないと言えるのか。

この問いに向き合わない限り、同じ種類の「構造的敗北」は、形を変えて繰り返されます。