理想が世界を動かすのではない――米軍によるカラカス攻撃が示した国際政治の現実

理想が世界を動かすのではない――米軍によるカラカス攻撃が示した国際政治の現実

南米ベネズエラの首都・カラカスが、米国による軍事攻撃を受けました。

深夜、市内各地で爆発音と低空飛行する航空機の音が相次いで確認され、停電を含む都市機能への影響も生じたと報じられています。

その後、ドナルド・トランプ大統領は、今回の軍事行動によってベネズエラの大統領ニコラス・マドゥロ氏を拘束したと発表し、これを「対麻薬テロ作戦」であると位置づけました。

米国がベネズエラの首都・カラカスを攻撃した背景には、単発の事件ではない、長年にわたる構造的な認識の積み重ねがあります。

米国はこれまで、南米で生産されるコカインが、カリブ海ルートなどを通じて自国に大量流入し、社会に深刻な被害を与えていると認識してきました。

その中で、ベネズエラは「生産国」ではないものの、麻薬取引の中継・集積・保護拠点として機能してきたのではないか、という疑念を米国側が強めていきました。

とりわけ米国が問題視したのは、港湾、空港、国境検問所など、本来は国家権力が管理すべき場所が、長期間にわたり麻薬輸送に利用されていたとされる点です。

これが単なる末端の汚職ではなく、国家中枢の黙認、あるいは関与を伴う構造ではないかという判断につながりました。

その結果、米国はベネズエラのニコラス・マドゥロ政権を、「犯罪を抑止できない政府」ではなく、「国際麻薬取引と結びついた脅威の中枢」と位置づけるに至ります。

さらに、制裁や外交圧力、刑事起訴といった通常の手段では状況が変わらないと判断した米国は、この問題を単なる犯罪対策ではなく、国家安全保障上の脅威、さらには「対麻薬テロ」の問題として扱うようになりました。

こうして、象徴的な政治・権力の中枢である首都カラカスが、脅威を断ち切るための標的として選ばれたと考えられます。

一方、ベネズエラ政府は、この軍事行動を国連憲章違反だとして強く非難しています。

しかし、国連で米国を実効的に糾弾する決議が成立する可能性は、ほとんどありません。

この一連の出来事を前にして、私たちはあらためて、国際社会の現実と向き合わざるを得ない。

理想が世界を動かすのではない――力を持つ国が、理想を使って世界を動かすのだ、と。

国際政治には、「世界政府」は存在しません。

国家の上位に立ち、最終的に命令を下し、強制的に従わせる権力はないのです。

国連はあります。

国際法もあります。

しかし、それらを破った国家に対して、必ず制裁が下るわけではありません。

とりわけ、圧倒的な軍事力・経済力・制度的影響力を持つ大国に対しては、なおさらです。

この現実を最も冷徹に言語化したのが、国際政治学者のジョン・ミアシャイマーが唱える「リアリズム」の世界観です。

彼の理論の出発点は極めて単純です。

国際社会は無政府状態であり、国家は常に不確実性と恐怖の中に置かれている。

だからこそ、国家はまず「生き残ること」を最優先に行動する。

これは善悪でも、道徳でもありません。

それが、国際政治の構造だというのです。

今回の米国によるベネズエラへの軍事行動をめぐる一連の動きも、この構造を如実に示しています。

といって、理想を捨てる必要はありません。

しかし、理想が力から独立して機能するという幻想は、捨てなければならない。