学校施設包括管理委託の制度的リスクを問う

学校施設包括管理委託の制度的リスクを問う

先週の金曜日(令和8年2月6日)、川崎市議会の文教委員会において、懸案となっている学校施設の包括管理委託方式について、教育委員会から実施方針(案)の報告がありました。

これまで各学校や教育委員会、地域の事業者が担ってきた維持管理や修繕の多くを、包括的に一つの事業者(包括管理委託事業者)へ委ねる仕組みへ移行するという、大きな制度変更です。

包括管理委託事業者が対象とするのは、市内176校にのぼります。

教育委員会の説明では、修繕対応の迅速化や維持管理水準の向上、教職員の負担軽減などが効果として示されました。

民間のノウハウを活用し、より効率的に運営していくという、平成以降の構造改革の流れに連なる考え方です。

当日の委員会においても様々な問題点を指摘したところですが、指摘しきれなかった点について以下、付記します。

まず、当該制度では、これまで川崎市が直接行ってきた発注や調整の多くが、一つの受託事業者(包括管理委託事業者)に集約され、さらに包括管理委託事業者から再委託業者に仕事が割り振られ、仕事の進め方や優先順位を決める力も包括管理委託事業者側に集中することになります。

そこで、これまで仕事を請け負ってきた市内業者からは「本当に、市内業者に仕事は回ってくるのか?」という懸念や不安が既に生じています。

こうした懸念や不安が生じるのは、無理のないことだと思います。

包括管理委託事業者が重視するのは、仕事を確実に進め、品質を安定させ、管理を容易にすることですので、これまでに実績があり、やり方を共有できている相手に依頼することが増えていく可能性があります。

慣れた相手を選ぶというのは、どんな組織にとっても自然な判断だからです。

もし包括管理委託事業者が、市外広域で事業を展開している企業であれば、その傾向はさらに強まるかもしれません。

複数の地域を同時に管理するためには、既に連携が取れている協力企業との関係を重視する方が合理的だからです。

その結果、これまで川崎市と直接やり取りをしてきた地域の事業者との関係は、大きく形を変えていく可能性があります。

さらに、見逃せないのは信用の問題です。

これまで市内事業者は、「川崎市から直接仕事を受けている」という事実そのものによって、金融機関からの評価を得てきました。

発注者が自治体から民間企業へ変わることで、その評価がどう変化するのか。

これは企業の経営にとって、決して小さくない問題です。

制度設計の中で、そこまで十分に織り込まれているのか。

改めて丁寧な検証が必要だと感じます。

場合によっては、市内事業者の側が受注を慎重に判断するという事態も想定しておく必要があります。

もし市内事業者の関与が薄れていけば、地域の中に長年かけて蓄積されてきた学校施設に関する知識や経験が徐々に失われていくことになります。

どの設備がどこにあり、過去にどのような修繕を行い、どこに注意が必要なのか。

そうした情報は、図面や仕様書だけでは十分に伝わらない場合があります。

日々の対応の中で積み重ねられてきた理解や判断力は、地域の事業者が継続して関わることで維持されてきました。

担い手が変わり、その関係が途切れてしまえば、将来的に同じ水準の対応力を保てるのかという点は、慎重に考えておくべき課題です。

これは単に受注の問題ではなく、地域に残る技術基盤をどう守るのかという問題でもあります。

加えて忘れてはならないのが、災害時の対応です。

学校は、台風や地震などの際には地域の避難所として機能します。

緊急時には、設備の状況や過去の修繕履歴、その場所特有の弱点を把握している事業者が迅速に動けるかどうかが、対応力を大きく左右します。

地域に根差した担い手が減少し、日常的な関係が薄れていけば、いざという時に同じ水準の初動対応が可能なのか。

その点についても、本市として制度導入前に十分な検証が必要となります。

この包括管理委託方式について、教育委員会からは「他都市でも事例があります」との説明がありますが、他の自治体で導入されているからといって、川崎でも同じように機能する、とは限りません。

地域の企業の規模や数、これまでの取引の歴史、地理的条件が違えば、制度の動き方も変わります。

川崎で始めたとき、発注の流れはどう変わるのか。

地域の事業者の立場はどうなるのか。

技術や人材は将来にわたって維持されるのか。

そこまで見通して制度は設計されているのでしょうか。

そもそも、市場に委ねればうまくいくという発想は、平成の改革の中で繰り返し語られてきました。

しかし現実には、委ねた後の責任だけは常に行政に戻ってきます。

であるならば、委ねる前の制度設計においてこそ、最大の慎重さが求められるはずです。

制度とは、始めることよりも、動き出した後の現実に責任を持つことだと私は考えます。

私はこれからも、この視点から、子どもたちの学ぶ環境と地域の力が守られる仕組みになっているのかを、議会の場で問い続けてまいります。