財務省が財政制度等審議会の分科会で、「建設業は深刻な人手不足であり、適切な価格・工期での施工は困難だ」との見解を示しました。
さらに、公共工事の増大は民間投資や災害対応を圧迫する「クラウディングアウト」が生じると警鐘を鳴らしています。
一見するともっともらしい議論です。
しかし、ここには重大な論点のすり替えがあります。
現在の建設業の人手不足は、20年以上続いた公共事業抑制政策の結果に他なりません。
需要を減らし続ければ、企業は投資を控え、人材育成を縮小し、若者は建設業を敬遠するようになります。
つまり、人が足りないのではなく、人が育つ環境を破壊してきたのです。
それにもかかわらず、「施工余力がないから公共事業は増やせない」と主張するのは、火をつけた本人が「燃えているから近づくな」と言っているようなものです。
政策の副作用を理由に、さらに政策を正当化する循環論法に他なりません。
財務省が持ち出す「クラウディングアウト」は、バブル期の資源逼迫を前提とした古い理論です。
公共投資が民間投資を呼び込む「クラウディングイン」という視点こそ、現実的な経済学的認識です。
防災・減災、老朽化対策、国土強靱化は、民間投資の土台そのものです。
国民生活の安全と経済発展を支える基盤整備を抑制しては、本末転倒です。
建設業界や国土交通省が主張する「施工余力はある」という言葉の真意は、発注を安定させ、適切な対価が支払われるのであれば、人材も設備も回復できるということです。
現状の供給力を理由に国家戦略を縮小するのではなく、供給力を回復させる設計を伴った中長期の公共投資こそ必要です。
財務省は短期的な施工余力不足を理由に抑制を正当化しようとしています。
対して、国土交通省は長期的な供給力回復を前提に国土の維持・強化を主張しています。
どちらが日本の未来に責任ある姿勢でしょうか。
答えは明らかです。
国土を守る力を弱らせてはなりません。
日本に必要なのは、国交省が示す長期的視点による供給力回復と国土維持の戦略です。
経済成長も安全保障も、結局は盤石な国土の上にしか築けません。
日本のインフラを守り抜くことこそ、私たちの暮らしと未来を守ることなのです。


