よく知られていますように、19世紀の世界は「パックス・ブリタニカ」と呼ばれます。
英国は工業革命で生み出した製造業の圧倒的な競争力を背景に、海軍力と植民地支配を拡大し、さらにロンドン金融市場(シティ)を通じてポンドを世界の基軸通貨としました。
英国は経常収支黒字国でしたが、その黒字資金を資本輸出として世界中に投資し、各国にポンド建て債務を負わせることで、ポンドを国際的に流通させることに成功しました。
一方、20世紀は「パックス・アメリカーナ」と呼ばれます。
第二次大戦後、米国は唯一の超大国としてブレトンウッズ体制を主導し、ドルを基軸通貨としました。
米国は経常収支赤字を通じて世界にドルを供給し、石油取引をはじめとする国際決済をドル建てに固定しました。
こうして米国は「ドル赤字を出し続けても世界がドルを受け入れる」という特権を得たのです。
しかし、21世紀に入り、イラク戦争とリーマン・ショックを経て、米国は急速に覇権国としての力を喪失します。
この21世紀を「パックス・ジャパニカ」にすることができたなら…と思うと夢が広がります。
そのためには何が必要でしょうか。
結論から言えば、日本が21世紀を「パックス・ジャパニカ」に導く条件は、実体経済・金融・安全保障の三位一体の強化にほかなりません。
まず、基盤となるのは実体経済の成長です。
そのためには、なによりも「税は財源」という誤った財政観を改め、積極財政によって公共投資・技術開発投資を進め、企業の設備投資・人材投資を誘発することが必要です。
需要増を外国人労働者の投入ではなく、生産性の向上により賄うことのできる成長サイクルを作り出すことができれば盤石です。
次に金融面では、東京を国際金融センターに育成し、円建ての外債(サムライ債)市場を拡大することです。
外国政府や企業が円建て債務を負えば、返済のために必ず円を調達・保有せざるを得ません。
その積み重ねが円の国際需要を創出します。
現在、日本の投資家はドル建て外債を大量に保有し、結果としてドル覇権を下支えしていますが、これを円建てに転換すれば、東京が「円のシティ」として機能する道が拓けます。
さらに、実体経済と通貨を支えるのは安全保障です。
英国が海軍を、米国が軍事同盟と基地を背景に通貨覇権を維持したように、日本もまた主体性ある安全保障体制を築かなければなりません。
そのためには、戦後の占領憲法体制、いわゆる敗戦利得者体制からの脱却が不可欠です。
自らの国土・国民を守る力を持たずして、円に世界の信認を集めることはできません。
この戦略が実現すれば、日本国民の暮らしに多面的な利益がもたらされます。
まず生活面では、輸入物価が安定することで日常生活のコストが下がり、加えて雇用や賃金が安定することで、誰もが安心して暮らせる社会が広がっていきます。
経済面では、円建て取引が主流となることで企業が抱える為替リスクが大きく軽減されます。
また、公共投資や技術投資の拡大によって新たな産業が育成され、その成果が国民所得の増加へとつながります。
安全保障面においては、主体的な防衛体制が整備されることで、国民の生命と財産が確実に守られます。
同時に、国際的な交渉力が強化されることにより、外部から不利な条件を押し付けられるリスクが減少します。
そして精神的な側面では、日本の技術や人材、文化が世界から求められることに誇りを抱くことができ、日本人としての自信と安心感が高まります。
こうして日本は、経済的にも安全保障的にも、そして精神的にも自信と誇りを取り戻し、次世代へ希望を託せる国へと成長していくのです。