民主国家の二重危機_米国の同盟縮小と経済不均衡

民主国家の二重危機_米国の同盟縮小と経済不均衡

セント・アンドリューズ大学のフィリップス・P・オブライエン教授は、第二次トランプ政権のもとで国際秩序が大きく揺らぐ危険性を警告しています。

米国が「自由世界の指導者」としての役割を縮小し、権威主義的な指導者に接近する姿勢を強めていることに強い懸念を示し、民主国家は米国に依存せず自らの自由を守るための協調を模索すべきだと訴えています。

教授の指摘は妥当ですが、ここで問うべきは「なぜ米国がそうした方向へ傾くのか」という点です。

新自由主義が形成した国際経済秩序は、賃金抑制による輸出競争力を頼りにする「輸出主導レジーム」と、家計債務や資産バブルを通じて消費を拡大する「債務主導レジーム」に二分されてきました。

ドイツや中国、日本は前者、米国や南欧は後者の典型であり、両者が相互依存的に機能した結果、世界的な不均衡が拡大し、金融危機や債務危機が繰り返されてきたのです。

米国における製造業の空洞化と格差拡大は、この債務主導モデルの限界を示すものであり、ラストベルトの不満は政治的に集約されてトランプの登場を招きました。

保護主義的な政策や国際協定からの離脱は、単なる偶発ではなく、この構造的な矛盾の政治的表出といえます。

したがって、オブライエン教授が論じる「米国の不信頼性」は、米国政治の性質だけでなく、グローバル・インバランスという経済構造からも説明されます。

一方、中国は内需転換に失敗し、過剰投資と債務膨張に直面しています。

欧州も財政規律やユーロ体制の制約のもと、内需拡大が困難です。

両者はいずれも「輸出主導レジーム」の限界に直面しつつあり、それでも米国という「債務主導モデル」に依存せざるを得ません。

この関係こそが不安定の源泉であり、単に安全保障面で協力を強めても、経済の不均衡を是正しなければ持続性は担保されません。

オブライエン教授は、トランプ再選による国際秩序の危機を強調していますが、注視すべきは、第二次トランプ政権の経済政策が再び新自由主義イデオロギーに回収される危険です。

規制緩和や富裕層優遇に傾けば、輸出主導と債務主導の構造は温存され、むしろ不均衡が悪化する可能性があります。

安全保障上の同盟の緩みと経済的不均衡の放置が同時に進めば、国際秩序は二重に不安定化するでしょう。

結局のところ、民主国家が直面している課題は二重です。

一つは米国の同盟縮小と権威主義への傾斜という政治的・安全保障上の危機、もう一つは輸出主導と債務主導の二つのレジームが生み出す経済的不均衡です。

前者に対しては民主国家の自立的協調が、後者に対しては内需主導への転換が求められます。

オブライエン教授の論文は、民主国家が生き延びるためには安全保障だけでなく経済構造の是正こそ不可欠であることを、私たちに示唆しているといえるのではないでしょうか。