自由貿易の終焉と相互脅迫の時代_日本はどう生き残るか

自由貿易の終焉と相互脅迫の時代_日本はどう生き残るか

国際経済の秩序は、いま大きく変容しています。

世界貿易機関(WTO)を中核とした多国間体制は機能不全に陥り、米中対立がそれを決定的にしました。もはや「自由貿易と相互利益」を前提とした旧秩序に戻ることはできません。

外交問題評議会会長マイケル・フロマン氏の論文『貿易戦争後の世界――システム崩壊からルール再構築へ』は、その現実を直視し、旧秩序の復活を「幻想」と断じています。

そして「開かれた複数国主義(plurilateralism)」による新たなルールづくりを提案し、同じ志を持つ国々が集まり制度再建を進めるべきだと主張しています。

しかし、ここに大きな限界があります。

フロマン氏の処方箋は、あくまで『ルールが共有されうる』という前提に立っています。

ところが現実は、すでにその前提を超えてしまったのです。

今日の国際相互依存は、互恵の仕組みではなく、武器として利用されているからです。

たとえば米国はドル基軸通貨とSWIFTを通じて制裁を行使し、イランやロシアに圧力をかけてきました。

ロシアはエネルギーや食料供給を外交カードとし、中国はレアアースや先端技術の輸出規制を「精密経済兵器」として駆使しています。

イランもまた、石油や代替決済システムを外交手段に転じています。

要するに、国際金融インフラ、資源、エネルギー、食料、軍事技術を握る国々が、それを外交の武器にしているのです。

互恵的な相互依存は終わりを告げ、相互脅迫の時代が到来しました。

この構造は、米中対立を単なる通商摩擦ではなく第二次冷戦――経済ネットワークを主戦場とする新たな冷戦構造――として理解すべきです。

ネットワーク支配をめぐる競争は、冷戦の新しい戦場となりつつあります。

したがって、フロマン氏が提案する「ルール再構築」は理想的に響きますが、現実には甘すぎると言わざるを得ません。

武器化された相互依存が国際政治を動かす時代においては、ルールの設計よりも、まずその武器化の現実を直視し、対応する戦略を持つことが求められます。

日本にとっても、これは重大な課題です。

米国主導のブロックに組み込まれる圧力は強まりますが、中国との経済的結びつきも切り離せません。

従来のように米国依存を前提とした外交を続ければ、日本は米中冷戦の狭間で歴史的犠牲を強いられる危険があります。

だからこそ、日本は戦略的自立を志向し、バランス外交を展開する必要があります。

相互依存が武器化される世界において、自国の選択肢を広げ、主体的に地域ネットワークを築いていくことこそが、日本の生存と繁栄を左右する最重要課題です。