「財政健全化」の呪縛を断て

「財政健全化」の呪縛を断て

参議院選挙はいよいよ最終日を迎え、明日が投票日です。

今回の選挙では、国債による積極財政を訴える一派と、「消費税は福祉財源」「借金は将来世代へのツケ」とする緊縮派とのあいだで、財政政策をめぐる明確な対立がありました。

しかしメディアはこの争点を取り上げず、「排外主義の台頭」といった本質から外れた報道で、論点をすり替えています。

外国勢力による政治・経済的圧迫を受け、国内の中間層がグローバリズムによって破壊されている現在、「日本国と日本国民を守る」と主張することのどこが排外主義なのでしょうか。

国民主義は、決して排外主義ではありません。

むしろ国民主義こそが、民主主義の土台です。

自国民を守ることと、他国を排斥することは、まったくの別物です。

さて、国会議員を志す以上、財政について次の基礎教養は不可欠です。

マクロ経済の基礎として、「政府収支・民間収支・海外収支(経常収支)」の3部門の収支は常に合計ゼロになります。

つまり、ある部門の黒字は、他部門の赤字によって成り立つのです。

よって、政府が赤字を減らせば、必然的に民間か海外部門が赤字を背負うことになります。

たとえば米国では1990年代後半に財政黒字を実現しましたが、民間が巨額の赤字を抱え、やがて2001年のITバブル崩壊につながりました。

日本でも同様に、1990年に財政黒字を達成しましたが、裏で民間が過剰債務に陥っていました。

その後、バブルが崩壊すると、民間は借金返済に動き、財政赤字が再び拡大したのです。

増税と歳出削減によって財政健全化を図ったものの、景気は悪化し、税収も減り、むしろ赤字はいっそう拡大しました。

財政の健全化は、支出の削減ではなく、景気回復による税収増によって達成されるものです。

また、経常収支(海外部門)によって財政赤字を埋めることは、理屈の上では可能ですが、為替や他国経済に左右されるため現実的ではありません。

さらに、過剰な輸出依存は他国の雇用を奪い、国際的にも歓迎されません。

現に、トランプ米大統領が仕掛ける相互関税は、米国の過剰な経常赤字と、日本・ドイツ・中国などの経常黒字、いわゆるグローバル・インバランスの是正を狙ったものです。

そもそも、日本政府が発行する国債は、国内通貨である円建てです。

政府は通貨の発行権を持っており、債務不履行にはなりません。

そして、ここが重要な点ですが、税は政府支出の「財源」ではなく、①インフレ抑制、②所得再分配、③景気調整、④政策誘導、⑤通貨価値の裏付けといった制度的な手段です。

先に述べたとおり、財政黒字=善という観念は幻想に過ぎず、政府が赤字であることは、民間が黒字であることの裏返しです。

それにもかかわらず、財務省と自公政権は「国が滅んでも財政規律を守れ」と言わんばかりに緊縮を押しつけてきました。

その結果、日本経済は30年ちかく停滞し続けています。

1930年代の世界恐慌下、ときの大蔵大臣であった高橋是清は「健全財政」の常識を打破し、大胆な財政出動で完全雇用を実現しました。

彼は、景気回復を優先し、国債発行を躊躇しなかった人物です。

日本に必要なのは、「財政均衡ありき」の思考から脱却することです。

今こそ、日本人は高橋是清の胆力と柔軟な知性に学び、恐れず財政拡大に踏み出すべきです。