財政の本質を知らずして「ツケ」と語るなかれ

財政の本質を知らずして「ツケ」と語るなかれ

参議院議員選挙もいよいよ終盤を迎えています。

そんな中、公明党がSNS上で流している選挙公報には看過できない内容が含まれていました。

公明党は、「国債を発行して後世の国民にツケをまわせばよいなどという無責任な主張をする人たちもいますが……」としています。

しかしこれは、財政や国債の本質を理解しないままの無責任な主張であり、極めて悪質な印象操作と言わざるを得ません。

公明党には理解が及んでいないのかもしれませんが、私たちの手元にある現金の源泉をたどれば、突き詰めれば「国債の発行」に行き着きます。

つまり、国債なくして私たちは現金を手にすることができませんし、政府が国債を発行してきたからこそ国民の金融資産は増えてきたのです。

2023年度末の我が国の債務残高は、1872年末比で4,623万倍、実質ベースでも1885年末比で616倍に膨れ上がっています。

では、私たちは本当に、先人の「ツケ」を背負わされているのでしょうか?

むしろ、国債によって整備されたインフラや制度の恩恵を受けているのではないでしょうか。

形式上、国債は確かに償還されていますが、その償還費用は基本的にロールオーバー(借り換え)の連続であり、事実上、返済の必要性がありません。

政府の財源は原則、国債発行であって、税収を財源とはしていません。

財政法第11条を読んでみよ。

「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。」

この条文により政府の財政支出は、年度内の歳入で年度内の歳出を賄うという原則(会計年度独立の原則、または年度単一の原則とも呼ばれます)が明確に規定されています。

川崎市などの地方自治体においても、地方自治法第208条第2項で、以下のように規定されています。

「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって、これに充てなければならない。」

これは、国の財政法第11条と同様に、地方自治体においても、その年度の支出はその年度の収入で賄うことを原則とする「会計年度独立の原則」を定めたものです。

とはいえ、政府にしても地方自治体にしても、4月からの予算執行は始まっています。

しかし、歳入が決定するのは年度末です。

税収の一部が徴収され始めるのは年度途中であり、少なくとも4月時点では税収はゼロです。

では、どうやって4月から政府も自治体も歳出(財政支出)をしているのでしょうか。

むろん、債券発行です。

政府であれば国債、自治体であれば地方債です。

そうです。

国であれ、自治体であれ、そもそも財源は借金ありきなのです。

つまり、行政はスペンディングファースト(支出が先)であり、歳入が後です。

これこそ、税収は財源ではないことの証左です。

通貨発行権を有しない上に、債券発行にも制約を設けられている自治体の場合、歳入見込みを気にしながら歳出規模を決めなければならないのは事実ですが、通貨発行権のある国(中央政府)は異なります。

あくまでも国の財政支出の原資は国債であり、税収は財源確保の手段ではありません。

税の徴収には、以下のような目的があります。

1.インフレ調整:政府支出により市場に供給された通貨を、税収で回収することで需給バランスを取る。

2.所得格差の是正:累進課税などを通じた分配機能の発揮。

3.景気の調整:景気過熱時には増税、不況時には減税することで経済の安定化を図る。

4.政策誘導:たばこ税など、社会的行動を促すための手段。

5.租税貨幣論:納税義務を通じて、円の通貨としての価値を制度的に裏付ける。

以上、ここに財源確保という手段はありません。

財政の基本を理解せず、国債=悪、税収=財源という固定観念に囚われたままでは、立法府で国の進路を論じる資格はないと私は考えます。