現場は一流、指導層は三流の国

現場は一流、指導層は三流の国

川崎市は4月24日から75歳以上の高齢者を対象にワクチン接種の受付を開始しました。

ところが、市内には約16万人の対象者がいるにもかかわらず、実際に国から届いたワクチン数はたったの14,000人分にすぎませんでした。

ゆえに、やむを得ず川崎市としては予約受付を一時的に中断せざるを得なくなった次第です。

ここにきて、ようやくのことではありますが、政府は6月の中旬ごろまでに約5,000万人分のワクチンを確保できる見通しが立ったようです。

すると今度は、国は接種業務主体である自治体に対して「7月中までに65歳以上の高齢者への接種をすべて終わらせろ!」と言う。

しかも、川崎市に対しては「今からでも、もっと大規模な接種会場を用意しろ!」とまで言ってきました。

当該ブログでも述べているとおり、川崎市はその取り扱いに技術的な繊細さが求められるファイザー社製ワクチンの性質上、及び人的資源の効率性と集約性の観点から「集団接種会場」を主体とし、足らざるところを「個別接種会場」で補うという接種体制を緻密に計画し整備してきました。

市内7区の各区一箇所に「集団接種会場」が設置されているのはそのためです。

一方、国(厚労省)は当初、『練馬モデル』なる複数の「個別接種会場」主体での整備を各自治体に推奨していました。

しかしながら、これでは人的及び物的資源が分散され、しかも冷蔵状態での振動を避けねばならないファイザー社製ワクチンを各個別接種会場まで移送する際のリスクも高まってしまいます。

残念ながら、こうした国が推奨する『練馬モデル』に踊らせられて、最初から個別接種会場主体で整備してしまった自治体は少なくありません。

なお、ファイザー社製ワクチンが―15℃以下での冷凍移送が可能になった3月1日以降は、ワイドショー情報によって練馬モデルに魅了された市民からの要望が高まり、川崎市においても個別接種医療機関を徐々に拡充せざる得ない状況になりました。

それが今度は「大規模接種会場を整備してでも早く接種を終わらせろ!」と言っているわけです。

危機を想定する能力に乏しい政府は、これまで容赦なく「病床」を減らし、「保健所」を減らし、「公務員」を減らし、「地方交付税交付金」を減らしてきました。

つい最近まで厚労省などは川崎市に対し、「市立井田病院は近隣の民間病院と医療機能が重複しているから病床を減らせ」という再編計画を通告してきたほどです。

そのくせ、コロナ以降、市立井田病院がコロナ感染患者を積極的に受け入れている現実などを無視し、まるで再編通告などなかったかのようにとぼけています。

合理的戦略性に乏しく、常に兵站を無視した場当たりな政策(司令)は大戦末期の帝国陸海軍大本営にソックリです。

ワクチン承認が諸外国に比べて4ヶ月も遅れてしまったことからワクチンの確保に時間を要し、自治体に対しては個別接種会場主体での整備を推奨し人的資源を分散させ、ひたすら国民に「自粛」を要請することしかできない政府。

専門家たちからの「外国での接種状況を見て安全性を確かめてからゆっくり接種すればいい」という意見や、「日本人は外国人と異なり特殊だから日本人を対象にもう一度治験をやったほうがいい」などの意見を政府が取り入れてしまったことこそが、我が国の接種率が一向に向上しない最大の要因ではないでしょうか。

滑稽なことに、そうした専門家らも今ではワクチン推進派に豹変しております。

ワクチン接種に否定的だった野党も同じで、今になって「政府のワクチン対応が遅い」などの批判に転じている有様です。

因みに、2009年の新型インフルエンザの際には、政府は日本人への治験なしで緊急承認し接種を行いました。

今回の件と比較すると、まさに一貫性のない対応です。

ワクチン接種は医師のほか看護師などを動員して行われますが、今度はワクチンはあるけど「打ち手が足りない…」という危機的な状況に陥る可能性があります。

あまり知られていませんが、人口あたりの医師数をみると我が国は先進国のなかでも最低レベルです。

OECD諸国の平均で見ても約12〜13万人も足りていません。

むろん、このことは国の政策の結果です。

要するに今後はワクチン不足が緩和されつつ、ある時点から「打ち手不足」が発生する可能性が大で、その分岐点はおそらく6月下旬から7月の上旬になろうかと推察します。

練馬モデルのような個別接種を重視して効率的な接種が行える集団接種を後退させた国の政策のツケが回ってくるわけです。

以上の観点から、7月中に65歳以上の高齢者への接種を終えるのは実に困難な状況ですが、我が国ではいつの時代でも軍事であれ医療であれ、常に「現場」は優秀です。

とりわけ現場は、異常なほどの頑張りで無茶な命令にも対応しようとします。

その意味で犠牲になるのはいつも「現場」と「国民」です。

川崎市においても、7月中までに65歳以上の高齢者へのワクチン接種を完遂すべく、人員、予算、物資、会場の確保に向けて既に動き出しています。

予算については、これからはじまる6月議会において補正予算が審議されることになりますが、この期に及んで「財政規律がぁ〜」などと言って異を唱える議員がいたならば容赦なく糾弾する所存です。