食糧戦争

食糧戦争

世界は再び食糧を兵器化する時代に突入しました。

上のグラフのとおりロシア・ウクライナ戦争勃発以降、食品価格は世界的に上昇し、とりわけ小麦などの主食を輸入に依存している北アフリカや中東地域の穀物供給が極端に滞り、地域の食糧供給を大きく悪化させました。

この一帯は、ただでさえ気候変動やら水不足やらと慢性的な食糧不安に怯え暮らす人々が多い地域ですので宜なるかな。

むろん、我が日本国においても食品価格の高騰に喘いでいます。

そのうえ消費税まで負担していますので、たちが悪い。

これまでの世界は、米国が主導する一極秩序のなかでグローバルな食料貿易が行われてきたため、食料価格は比較的に安定していました。

ロシア・ウクライナ危機は、まさにこのグローバルな貿易体制を完全に終焉させたようです。

ただ、識者の中には、グローバリズムの終焉はロシア・ウクライナ戦争以前から既にはじまっていた、とする意見もあります。

つまり、「終わりのはじまりは、いつからだったのか…」という議論ですが、例えば、2008年のリーマン・ショックがそうだったのではないか、というのが濃厚です。

なぜなら、世界のGDPに占める輸出入の合計比率をみますと、確かにリーマン・ショック直前をピークにして低下しはじめているからです。

ポール・クルーグマンが指摘しているように、1870年から1913年までの世界GDPに占める輸出入の合計比率は17.6%から1913年には29%にまで上昇していましたが、1914年に第一次世界大戦の勃発したことで、それ以降は大きく下落してしまいました。

すなわち、戦争がグローバル貿易の息の根を止めたわけです。

リーマン・ショック直前までの世界貿易に占める輸出入の合計比率は61.1%でした。

以後、下落しはじめて、やはり2021年2月に勃発したロシア・ウクライナ戦争が決定的となりました。

食料自給力の弱い我が国としては、世界的な食糧不足は実に深刻な問題です。

国際連合世界食糧計画WFP協会によれば、世界では既に1億人ちかくの人々がWFPの支援を受け、そのなかの約3000万人はこの支援に生命の維持を依存しているという。

もしもこの支援がなければ、紛争地域の多くで連日30万人もの人々が餓死するとも言われています。

紛争が食糧供給を不安定化させ、食糧供給の不安定化が地域紛争をもたらすという悪循環に陥っているようですが、さらに恐ろしいのは敵対地域において戦略的に食糧の不足をもたらす事例もでています。

いわゆる「食糧の兵器化」です。

目下紛争地域となっているガザに向けて搬送している食糧トラックをイスラエルが攻撃対象にしているのはその一例であり、ロシア・ウクライナ戦争勃発直後、ロシアがまず最初に行ったのもウクライナの農業生産能力の破壊でした。

あるいは、シリア内戦の際にもアサド政権は反政府勢力がいると思われる居住区への食糧供給を禁止し、イエメン内戦でも紛争勢力の双方が互いに農業生産を破壊のターゲットにして現地の食糧需給を逼迫させていました。

因みに、「食糧の兵器化」は、洋の東西、時の古今を問わず行われてきた手法です。

日本でも「兵糧攻め」というものがあったように。

さて、今や世界は食糧戦争に突入したと言っても過言ではありません。

我が国においても、急ぎ国内の食料生産能力を高めなければならないと同時に、食糧を兵器化することを禁止する趣旨の世界条約の締結を国連で提唱してみてはどうか。

言うまでもありませんが、憲法9条では食糧戦争を防ぐことはできません。