嘆きの門

嘆きの門

地理的にその1点を抑えることで水上航路を遮断でき、その一帯の海域をも制圧することもできる戦略的な重要地点をチョークポイントと言います。

現世界の水上航路には「〇〇海峡」と呼ばれる少なくとも10個以上のチョークポイントが存在し、国際的に取引されている大量の物資やエネルギー資源がそこを通過しています。

チョークポイントの地政学的かつ軍事的緊張の高まりは、その地域のみならず、世界経済や国際安全保障に大きな影響を及ぼします。

例えば、そこを特定の国家が封鎖すると、他の国家への石油供給を止めることができるわけですが、中国が南シナ海に進出しようとしているのも、米国がそれを阻止しようとしているのも、マレー半島とスマトラ半島の間に位置するマラッカ海峡というチョークポイントをお互いに抑えたいからです。

「封鎖されたら別のルートで遠回りをすればいいじゃん…」と思うかもしれませんが、遠回りさせられた国は価格競争に負けることになります。

なのでチョークポイントは、現在ではグローバルコモンズ(国際公共財)となっています。

さて、そうした数あるチョークポイントの一つにマンデブ海峡があります。

マンデブ海峡は、アラビア半島の南端とアフリカ大陸東部に突き出た半島の先端の間に位置する海峡で、その幅は32キロメートルしかなく、インド洋北部のアデン湾から紅海に入るための玄関口でもあり、スエズ運河から紅海を経由してアデンに出てゆくための出口にもなっています。

この海峡の東側には政情不安定なイエメンが、西側にはエリトリアとジプチの国境地域が接しています。

ちなみに、マンデブ海峡の正式名称は、バブ・エル・マンデブ海峡です。

アラビア語でバブは「門」を、マンデブは「悲嘆」の意を表しますので、この海峡は古くから「嘆きの門」、あるいは「涙の門」と言われています。

この海峡は浅瀬が多く、前述のとおり狭い水路で、常に予測不能な風が吹いていることから、数百年、数千年にわたって無数の船が難破しており、今なお航行する船舶は過去の紛争による機雷の危険に晒されなければなりません。

これが「嘆きの門」と言われる所以です。

IMO(国際海事機関)によりますと、マンデブ海峡では毎年、数億トンの貨物が通過しているとのことです。

数億トンというと、世界の海上輸送量の4分の1にあたります。

1月11日、英米軍がイエメンの武装組織シーフ派の関連施設を空爆したのは、シーフ派がマンデブ海峡を通過する貨物船への攻撃を繰り返していたからです。

1月13日に台湾の総統選挙が行われましたが、もしも台湾が中国に飲み込まれると、台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡が中国に抑えられることになります。

我が国が使用するエネルギー資源の多くが、このバシー海峡というチョークポイントを通過していることはご承知のとおりです。