債務上限問題という茶番

債務上限問題という茶番

去る5月7日、 イエレン米財務長官はABCテレビの番組に出演し、「米議会が債務上限問題で適切な対応を怠れば、憲法上の危機を招き、連邦政府の信認に疑義が生じかねない…」と力説しました。

ご承知のとおり、いま米国議会では、米国政府の債務上限問題をめぐって紛糾しています。

共和党は歳出削減を強く求め、歳出拡大の必要性を説く民主党との妥協を拒み続けています。

とりわけ下院共和党の保守強硬派は、マッカーシー下院議長の選出の際にも最後まで抵抗していました。

例によって米国のメディアは「この債務上限問題による市場の混乱は避けられず、影響は世界に及ぶぅ〜」と喧伝しています。

さて、結論から言うと、この一連の話は実にバカバカしい茶番です。

なぜ茶番なのかというと…

米国では、政府が国債を発行して借金できる上限が予め法律で定められています。

むろん、そんなものを定める必要など全くないのですが、米国では政治的産物により政府の債務上限が法律で定められているのでございます。

その上限を引き上げるには、上下両院での承認を必要としています。

ご承知のとおり、現在の下院は野党である共和党が多数派です。

先週、共和党のマッカーシー下院議長は、上限を引き上げる代わりに大幅な歳出削減を義務づける法案を取りまとめ、僅差で可決に漕ぎつけています。

他方、上院では、与党の民主党が多数派を占めています。

バイデン大統領と民主党の指導部は、上限を無条件で引き上げるよう求め、共和党が主張する歳出削減を拒絶しました。

そこで5月7日、イエレン財務長官が「債務上限を引き上げなければ、資金不足で米国債は、デフォルト(債務不履行)に陥るリスクがある…」とテレビ番組で強調したわけです。

共和党が求める歳出規模では、バイデン政権が進めようとしている気候変動対策や低所得層への支援策などを賄えない。

要するに、イエレン財務長官及び民主党としては「米国国民と経済を人質にとるような交渉には応じられない…」と言うわけです。

とはいえ米国もまた、わが日本国と同じように変動為替相場制を採用する独自通貨国です。

米国債はすべてドル建てなのですから、いかに米国政府が法律の上限を超えて借金を拡大したところでデフォルト(債務不履行)することなど物理的にあり得ません。

そのことは、わが国の財務省様でさえ認めています。

「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」(『外国格付け会社宛意見書要旨について』2002年5月2日)

例えば、次のようになれば話は別です。

米国政府が必要もないのに外貨建てで国債を発行し、固定為替相場制(1ドル=〇〇円)を採用する。

その上で、経常収支が大幅な赤字になるまで財政支出を拡大し続けたとしましょう。

さすがにここまでやれば、米国政府はいずれ外貨が不足し、外貨建て国債の返済が履行できなくなり、めでたく財政破綻(デフォルト)となるわけです。

逆にそこまでやらなければ、米国政府が財政破綻することなど万に一つもあり得ないのでございます。

にもかかわらず、わざわざ債務上限を法律化して、それを引き上げるかどうかなどと政治的パフォーマンスをやっているわけです。

こうした攻防パフォーマンスは、米国議会の毎度おなじみの風物詩であり、過去に何度もくり返されてきました。

そういえば、2011年にも現在と同じように「ねじれ議会」のもとで債務上限問題をめぐって与野党交渉が難航したことがあり、その結果、米国債が史上初めて格下げされていました。

実にバカバカしい茶番です。