財務省こそ安全保障上の脅威

財務省こそ安全保障上の脅威

去る2月に防衛省設置法の改正案が国会に提出され、4月21日に交付されたことをご存知でしょうか。

法案の中身をみますと、航空自衛隊の定員が18名、陸上自衛隊の定員が255名も減らされています。

防衛省の説明資料によれば「サイバー領域における優位性の獲得に必要な部隊の拡充をはじめとする体制整備のため…」と書いてありますが、むろん拡充強化は理解できますが、なぜその代償として陸自と空自の定員を減らす必要があるのでしょうか。

なるほど資料をよくみると、サイバー領域における優位性の獲得に必要な部隊として、海自のほか共同部隊を含め273名を増やした分、陸自(255名)と空自(18名)が削減されたということです。

273 – 255 – 18 = 0

このように自衛官全体の定数は変わっていないわけですが、要するに自衛官の定員数にキャップが嵌められているということです。

どこか増やすのなら、必ず他のどこかを減らしなさい…というように。

少し解説が必要になります。

防衛予算の44%が実は自衛官の人件費なのですが、部隊の性質上、最も人員を必要とする陸上自衛隊は予算の67%が人件費となります。

「この割合は世界に冠たるものだ…」と皮肉る人たちがいますが、ご承知のとおり、我が国の防衛予算は戦後「GDPの1%枠」という上限がはめられ、近頃では「GDPの0.9%枠」となっていました。

総額が抑制されているのですから、人件費の割合が高くなって当然です。

因みに、世界標準はGDPの2〜3%です。

昨年暮に防衛3文書が改定され、我が国もようやく世界標準並みの防衛予算が編成される予定ですが、これまでが極端に少なすぎたわけです。

1995年暮に決定された『07大綱』において、陸上自衛隊の編成定数は18万から16万に、13個師団から9個師団・6個旅団体制へと縮小されています。

これは、仄聞するところによると、米ソ冷戦が終焉したことを受け、防衛予算を抑制したい財務省が自衛官の定員見直しを迫った結果らしい。

おそらく財務省としては「陸自予算の3分の2が人件費なんでしょ。ソ連の脅威も無くなったんだから少し見直すべきでは…」と言うことか。

それでも歴代の陸自幹部たちは、編成と定数は変えても実員数は一切減らさず、さらに即応予備隊員を増加し実充足率を当時の82%から限りなく100%に近づけるよう申し送ってきたそうです。

その涙ぐましい努力の成果により、現在の充足率は陸海空ともに92〜94%らしい。

健全財政派(緊縮財政派)の権化たる財務省をはじめ、ネオリベラリズム(新自由主義)に毒された人たちは、常に「人件費」そのものを無駄金と決めつけます。

彼ら彼女らは「できるだけ省力化して(デジタル化等で)装備を充実させればいいじゃないか…」と簡単に言うわけですが、部隊隊員の団結と訓練練度こそが戦力の基礎となるものです。

鉄道の改札やスーパーマーケットのレジ打ちとは、ちと話が異なるのでございます。

この30年間、防衛省及び自衛隊もまた、「財政健全化」という錦の御旗を掲げる財務省にズルズルと引きずられてきたのでしょう。

正しい貨幣観(財政観)を持たぬ財務省こそが、我が国の安全保障を根底から脅かしていると断じざるを得ない。