日本を選んだインド、中国を選んだインドネシア

日本を選んだインド、中国を選んだインドネシア

インドネシアの高速鉄道(新幹線)でトラブルが続いているらしい。

新幹線といえば、私たち日本人にとっては、ビジネスでの出張や旅行、あるいは故郷への帰省の際には欠かすことのできない根幹的な交通インフラの一つです。

私たちは当然のように利用していますが、海外では、とりわけ発展途上国では、まだまだ高速鉄道ネットワークの整備は進んでいません。

なので発展途上国における高速鉄道整備というものは、国家的巨大プロジェクトとして計画されるケースがしばしばです。

そこで、わが日本国で培った高速鉄道のテクノロジーとノウハウを輸出し、ビジネスとして成功させようという取り組みが加速しているのは周知のとおりで、海外で持ち上がった高速鉄道プロジェクトに入札し、ぜひとも受注を勝ち取ろうというわけです。

日本が入札した海外の高速鉄道プロジェクトの一つに、インドネシアのプロジェクトがありました。

むろんわが国はこのプロジェクトを受注するべく様々な取り組みを行って強くアピールしてきたのですが、よせばいいのに落札したのは中国でした。

そんな中国製インドネシア高速鉄道でトラブルが続いているというニュースが世界的に注目を集めています。

昨年(2022年)9月1日、中国の高速鉄道輸出の1号案件、かつ東南アジア初の高速鉄道となる「インドネシア・ジャカルターバンドン高速鉄道」第1号編成と検測列車、計2編成16両を積載した貨物船がインドネシアに到着しました。

この高速鉄道は、インドネシアと中国の国営企業であるコンソーシアムによって建設が進められている、いわば「オールチャイナ」の高速鉄道ですが、もちろん中国の「一帯一路」構想の名のもとに行われているものと理解していい。

建設中の鉄道は、首都ジャカルタと近隣都市のバンドンを結ぶもので、最速時速350キロで走行(大丈夫か…)し、在来線で3〜5時間かかる移動が約50分に短縮される計画とのことです。

因みに、レッドコモドと愛称された車体の色はシルバー地に赤いラインで、インドネシアに生息するオオトカゲであるコモドドラゴンをモチーフにしたのだとか。

さて、日本はこの入札で円借款による新幹線輸出を狙っていたのですが、中共政府はなんと言っても「一帯一路」の目玉と位置づけているので、それはそれは強烈な受注工作を展開したらしい。

最終的にはインドネシアに公費負担を求めないとする融資条件が決め手となって2015年9月に中国が受注を勝ち取ったわけです。

ところが、鉄道を運営する『インドネシア中国高速鉄道』によりますと、中国が提案した事業費は約8000億円だったのですが、コロナ禍や用地取得の難航などで約1兆500億円に達してしまったらしい。

インドネシア政府としては「公費負担を求めない…」という経済的な面を優先した落札だったのですが、それが裏目に出ている状況です。

しかも、おカネの問題だけではありません。

昨年12月18日、建設中の高速鉄道の工事現場では工事車両の脱線転覆事故が発生し、作業中の労働者7名が死傷しています。

地元メディアによると、線路敷設用の工事車両がすでに敷設された線路上を走行中に、何らかの理由で未敷設区間に乗り出して脱線し転覆したとみられています。

これはトラブルの一つに過ぎない。

建設工事がはじまりつつも、ことのほか用地買収が難航し、騒音や洪水、地滑りなどのトラブルが発生、そのうえ2019年の完工時期は遅れに遅れ、現段階では今年6月の完工予定となっているらしい。

そりゃぁ、脱線転覆事故が発生しているのですから余計な手間と時間とカネを要するのも当然でしょう。

おそらく6月の完工も困難かと。

2022年11月16日、G20(20か国・地域首脳会合)がインドネシアで開催されたのは周知のとおりですが、これに合わせて、建設中の高速鉄道の試運転を公開して世界にアピールするつもりだったようです。

公開試運転は、当初、習近平国家主席を招待して実際に乗車してもらう予定だったらしいのですが、急遽、バリの会場からオンラインでつないで実施するライブ配信形式に変更されました。

おわかりですね。

そんな危ない新幹線に国家主席を乗せるわけにはいかなかった、ということです。

しかも、公開試運転も距離にしてわずかバンドン側の車両基地から約20キロで、最高時速は80キロでした。

時速80キロでは、在来線と変わらないじゃないか。

そういえば、中国の浙江省温州市で2011年7月、高速鉄道の高架上で追突脱線事故が起きていますね。

たしかあの時、高架下に落下した車両を事故後24時間が経過する前に穴に埋めてしまうという驚きの事故処理が行われました。

事故原因の調査がはじまる前に証拠隠滅を図った、と世界から批判されたと記憶しています。

なお、建設中の事故といえば、2019年12月にも広東省広州市の地下鉄建設工事現場で突然に道路が陥没し、通行車両2台が落下するという事故もありました。

恐ろしいことに、この事故では計3人が車両とともに埋められています。

安否確認も行わずにコンクリートを流し込んで陥没を塞いでしまったのです。

これは明らかに「隠したいこと」があって、どうしてもそれを隠蔽したかった、ということなのでしょう。

そんな中国製の高速鉄道をインドネシアは選んでしまったのです。

インドネシアの高速プロジェクトとは対称的なのが、日本が受注したインドの高速鉄道建設です。

2015年の日印首脳会談で新幹線方式導入が決定し、「高速鉄道公社」が設立され2017年に着工、今年中の開業を目指して建設が進められています。

マハラストラ州の商都ムンバイとグジャラート州の工業都市アーメダバードの508キロを結ぶもので、インドの経済発展に寄与するインフラとなることが期待されているわけです。

むろん、これまでこれといったトラブルも事故もありません。

また、単純に高速鉄道を建設するだけでなく、人材育成などの面でも日本はインドにスキルの伝達を行っています。

具体的には、運転や保守点検に携わる人材を育成する研修所を設置し、日本の新幹線車両を模したシュミレーターを活用してスキルの伝達が行われています。

保守管理要員ら約3500人がすでに教育を受け、公社担当者は「地震の際に自動ブレーキがかかるなど、日本の最先端の技術は学ぶ価値がある」としているほどです。

このように日本は作るだけでなく、そのあとの運用面でもサポートを行うなど、安全な高速鉄道の運用をインドの地で取り組んでいます。

こういった姿勢は明らかに日本が関わるプロジェクトの特徴です。

戦前もそうでした。

むろん、日本による鉄道建設にしても、現地の用地取得に時間を要するなどの問題がないわけではありませんが、少なくともどこかの国のように「隠したいこと」を隠蔽するといったことはありません。

今後、高速鉄道を建設したい発展途上国は、ぜひとも「インド」と「インドネシア」の高速鉄道プロジェクトの違いをご参考にされることをお勧めします。