クリミアという天王山

クリミアという天王山

ロシアによるウクライナ侵攻について、西側メディアが垂れ流す情報を鵜呑みにしていると、どうしても「正義のゼレンスキー VS 悪のプーチン」という単純化された構図しかイメージできない。

この戦争の背景にあるものを、世界的・歴史的な規模で俯瞰し分析する努力を怠ってはならないと思います。

例えば、2014年にロシアがクリミアを併合したのは、親露派のウクライナ大統領とはいえ公正な選挙で選ばれたヤヌコビッチ大統領を、明らかに米国の工作によって引きずり下ろし非民主的に親欧米派の大統領にすげ替えたことへの報復でした。

しかも、その工作を主導したヴィクトリア・ヌーランド氏をバイデン政権の国務次官補に就けたのですから、プーチン大統領の神経を逆撫でしたのも当然です。

そのくせクリミアが併合されたとき、欧米はそれを批判するだけでプーチン大統領の行動を事実上容認してきました。

今思えば、ロシアにウクライナを侵攻させる下地が、既にこのころから拵えられていたようです。

クリミアを併合したロシアに対し、米国や欧州がとった唯一の具体的対応は無数の抜け穴のある制裁でしかありませんでした。

抜け穴だらけであったがゆえに、その後もロシア経済は成長し、制裁を行っている欧州各国もロシアエネルギーへの依存度を高めつつ、ロシアとの通商関係をも拡大してきました。

経済力を蓄えつつもプーチン大統領は「ウクライナをNATOとロシアの地政学的な緩衝地帯にさえしてくれればこれ以上は手を出さない…」と国際社会に訴えていました。

にもかかわらず米国はウクライナをNATOに加盟させようと画策したのですから、ロシアが大胆なウクライナ侵攻計画を立案したとしても何ら不可思議なことではありません。

否、むしろロシアがそうせざるを得ないように米国が仕向けてきたとさえ言えます。

ウクライナ政府や反ロシア派武装勢力を経済的に支援しているのはウォール街の息のかかった人たちでしょうから、バイデン政権の対露政策に関してもウォール街のご意向が強く働いているものと推察します。

現在、まったく停戦の見込みが立っていませんが、ウクライナとしてはクリミアを奪還するまで停戦に応じるつもりはないでしょうし、ロシアもロシアでクリミアだけは何としてでも死守しようとするでしょう。

ウクライナのみならずロシアにとってクリミアは軍事的要衝であり、国際的な物流戦略にとっての要衝です。

現に、クリミアを併合したロシアは世界のエネルギー供給に対する支配力を強化しました。

さらにロシアはクリミアを占領しつづけることで黒海とアゾフ海における優位性を手にしていますが、どちらにもユーラシアの農産物を運び出すシーレーン(海上輸送路)があります。

因みに、黒海には多くの資源があります。

ロシアは二つの海の港湾と航路へのアクセスを管理することにより、鉄鉱石や石炭、工業製品やウクライナの穀物等々、多くのコモディティの供給を管理できるようになっています。

日本においても4月に改定される小麦の政府売渡価格が4割増しになるのも、このことに影響しています。

クリミアをどうするのか。

この戦争の行方は、この一点にかかっているのかもしれない。