凄まじい弔問外交

凄まじい弔問外交

きのう午後2時すぎからはじまった安倍元首相の国葬は、午後6時すぎ滞りなく無事に終わりました。

葬儀には218の国、地域、国際機関から約700名の外国要人が参列されましたが、弔問のための来日とはいえ、それはそれは生々しい政治交渉が展開されたようです。

岸田総理は今回の国葬儀で少なくとも30人以上の首脳らとの会談を予定しています。

きのう行われた会談でも、現在の世界情勢を反映してか、主として資源についての話し合いが多かったらしい。

今回の国葬儀に「G7(米、英、加、独、仏、伊)の首脳が来てない…」と批判しているメディアも見受けられますが、それは少し相手国の意図を汲み取っていない勇み足な見方かと思います。

例えばオーストラリアとの会談では現職のアルバニージー首相のみならず、ほか元首相が3人も同席しています。

即ち、彼の国は4名で弔問されたわけです。

元首相といっても彼らは引退しているわけでなく、今もってオーストラリア政界に純然たる力を誇っています。

それだけ手厚い弔問をされているのですから、会談の内容は概ね想像がつきます。

我が国は液化天然ガス(LNG)輸入の4割をオーストラリアに依存する大輸入国です。

ご承知のとおり、いまオーストラリアはウクライナ戦争を受けて世界中から引く手あまたの状況です。

ヨーロッパからも中国からも「ぜひLNGを売って欲しい…」と言われています。

表向きとして豪中関係はギクシャクしているところですが、水面下ではシビアな資源交渉が行われているという。

そうなると、お得意様とはいえ日本に対して相応の「値上げ」を要求したいと考えるのは明らかです。

一部では「そろそろ輸出を止めるべきだ」という意見もでているぐらいですから。

現職と元職の4人で弔問に来て頂き誠に有りがたいものの、我が国は厳しい要求を突きつけられるはずです。

一方、中東からは、イランの石油相、クウェートの外相、バーレーンの皇太子兼首相(中東の王族自体が石油担当大臣のようなもの)、UAEの産業・先端技術相、トルコ外相、ヨルダンの国王と王子、サウジの外相、オマーンの宮内省顧問が弔問に訪れました。

言わでもがな、中東諸国は「石油」の話です。

外相であろうが、それ以外の肩書であろうが、石油についての決定権を持つ人たちが弔問に訪れたわけです。

因みに、経済制裁を発動中のロシアに対しても日本は国葬儀の案内を出しており、ロシア側もプーチン大統領の代理を弔問によこしています。

頓挫している『サハリン2』の話もありますので、経済制裁中のロシアとはいえ日本としては案内状を出すのは当然でしょう。

北方領土の話もありますので、ロシアとの外交の線を断ち切ってしまうわけにはいきません。

ほか、ポーランドからは副首相兼農業・農村担当相が弔問に訪れていますので、これはおそらく我が国と「食料危機問題について協議したい…」ということでしょう。

経済危機に苦しむスリランカからはウィクラマシンハ大統領、欧州の最貧国とも言われるモルドバからはガブリリツァ首相らが弔問されていますが、おそらくは日本に資金援助を求めるのではないでしょうか。

このように弔問に訪れた要人の肩書をみると、その国の外交的な狙いのおおよその見当がつきます。

さて、肝心の米国からはハリス副大統領が弔問に訪れました。

副大統領の日本到着は、在日米軍の司令部がある横田基地でした。

きのうはオーストラリア首相と会談し「インド太平洋全体の安全保障」について議論されたようですが、今日は日本の半導体企業の幹部と会合をもち、その後、横須賀の米軍基地で演説する予定です。

あすは合同軍事演習中の韓国へ移動してユン大統領と会談するというから、ハリス副大統領の弔問目的はほとんど軍事・安全保障だけにあったと言ってもいいでしょう。

岸田総理は今日も多くの首脳たちとの会談に臨むものと思われます。

世論を分断してまで行った国葬儀です。

ぜひ国益に適う外交を展開してもらいたいと思いますが、もう一つ注目されるのは、弔問に訪れたそれぞれの要人たちが日本抜きで会談を行っていることです。

残念ながら他の先進諸国とは異なり、我が国にはそれら会談内容を極秘で入手する術をもった諜報機関がない。