食糧危機と政情不安

食糧危機と政情不安

ウクライナ戦争と、それに伴う海上封鎖によって主要穀物価格が高騰しています。

戦争前(例えば昨年末の段階で)、ブッシェル(穀物の単位)当たり7.79ドルだった小麦価格は、今年の5月中旬には12.83ドルへと6割以上も上昇しました。

ロシアが、ウクライナがほぼ全ての穀物を輸出している黒海の港を封鎖しているのは周知のとおりです。

加えて、海上保険会社が紛争海域を通過する貨物の保障を嫌がっていることもあって、ボスポラス海峡を通過するウクライナやロシアの小麦やトウモロコシの輸出はことさらに減少しています。

ペロポネソス戦争の際、スパルタにボスポラス海峡を封鎖されたアテネはウクライナからの穀物を入手することが困難となって食糧難に陥ったのは有名な話です。

ゆえに今、エジプト、アフガニスタン、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、南スーダン、そしてイエメンを含む中東や北アフリカの多くの国々が食料危機、即ち供給不足と価格高騰に見舞われています。

「海がダメなら陸から運べばいいじゃん…」と考える人がいるかもしれませんが…

たしかに陸上輸送はウクライナがロシアの海上封鎖を迂回し、農産物を輸出するための一つの手段ではあります。

しかしながら、そう簡単な話ではありません。

例えば海路の場合、ウクライナの食料輸出の全て(推定3000万トン)を輸出するのに必要な船舶数は100隻ほどですが、鉄道(陸路)となると約30万車両が必要になります。

なお全ての穀物を輸送するのに必要な時間についても、貨物船(海路)なら4ヶ月で済むのですが、鉄道(陸路)なら14ヶ月も要してしまうのです。

残念ながら、ウクライナの鉄道網には海上貿易の損失を埋めるほどの輸送量がないのでございます。

報道のとおり、ウクライナ戦争は長期化の様相を呈しています。

歴史的に自然災害死史観の日本国民は「危機(紛争)は短期間だけ耐え忍べばいいもの…」と考えがちですが、紛争死史観の欧米や大陸国家においては長期戦を覚悟して戦っているはずです。

このように世界的な食料危機への不安は高まるばかりですが、中国やインドのように輸出規制や食料買い占めにより食料価格の不安定化を助長している国もあります。

我が国といえば、カロリーベースでの食料自給率は年々下がり続けて今や37%にまで低下してしまいました。

そのうえ、財務省とメディアが主導する緊縮財政(PB黒字化目標至上主義)の効用によって、我が国の食料供給能力は毀損されて続けています。

今や我が国の農業は、お米農家の多くが経営難から廃業せざるを得ない、という深刻な事態に陥っているにもかかわらず、「これで農業補助金をカットできる」と喜んでいる財務官僚がいるとかいないとか。

今の日本の政治には「食糧危機が迫っている…」という危機感が乏しいように思えます。

2010年から発生した、いわゆる『アラブの春』は、ロシアを震源地とする穀物価格の上昇によってアラブ諸国民の不満が爆発して起こったと言われています。

戦争が長引けば長引くほどに穀物供給はさらに減少し、やがて食料不足が暴動をもたらし、政治と社会面での不安定化が誘発されることになります。

世界の不確実性は高まるばかりです。