毀損されてきた供給能力を回復しなければならない

毀損されてきた供給能力を回復しなければならない

道路整備やダム整備等のために計上されている政府の公共事業予算が、計画通りに執行されておらず、翌年に持ち越されてしまうケースが増えています。

年度内で消化できず翌年に持ち越された額は概ね4兆円を上回っており、10年前の2.5倍に達するとのことです。

執行できない理由はいくつか考えられますが、まず一つには、この20年間にわたり公共事業費を削減してきたこと、そして経済が成長してこなかったこと(デフレ経済)などを受けて、我が国の土木・建築の供給能力が毀損され続けてきたことが大きいのだと思われます。

理由の二つ目は、これも供給能力毀損に含まれますが、単純に生産年齢人口比率低下に伴う人手不足。

理由の三つ目は、コロナ禍やウクライナ危機に伴い、輸入資材、輸入原料が高騰していることや、そもそもサプライチェーンが滞っていること。

新庁舎を建設中の川崎市においても、輸入資材のサプライチェーンが滞っていることから、工期の大幅なずれ込みが既に明らかになっています。

そのほかの理由として、これは公共事業に限らないことですが、例によって平成の「構造改革」によって公務員を減らしすぎたことです。

せっかく予算がついているのに、職員のマンパワーが足らずに執行できないケースが地方自治体においても増えています。

なによりも、我が国は25年間もの長きにわたって緊縮財政を根本原因とするデフレ経済なのでございます。

このことが供給能力を毀損してきたという、負の影響は計り知れません。

それなのに緊縮財政派は「どうせ執行できないのだから、積極財政なんて意味がないじゃないか」と主張しているのですからまこと本末転倒です。

当たり前の話ですが、予算が執行できないからといって予算が不必要なわけではありません。

例えば国土交通省は現在、千葉県富津市から神奈川県横須賀市に至る延長約160kmの国道を東京湾岸に沿って整備しています。

東京湾岸道路(357号線)です。

当該事業は国による直轄事業(国庫事業)なのですが、国は道路が整備される各地方自治体に対してまで「負担金」を求めています。

因みに、川崎市は当該国庫事業に約1000億円を負担させられます。

くどいようですが、東京湾岸道路(357号線)の整備は国の直轄事業です。

なんで通貨発行権のない自治体が、通貨発行権を有する国に負担金を支払わねばならないのか全くもって意味不明ですが、要するに為政者たちの「貨幣」の本質に対する無理解としか言いようがない。

予算を消化できずにいるのなら、その分、地方自治体への地方交付税交付金を増やしてほしいし、地方自治体に国直轄事業への負担金を要求するのも止めてほしい。

何よりも、我が国はこれまで毀損されてきた供給能力を回復しなければならず、そのためには着実で安定的な需要創造(財政支出)を行わなければなりません。

むろんコストプッシュ・インフレへの対策としても、政府は企業への投資減税や投資補助金という財政支出で対応しなければならない。