高まる中国の影響力を、いかに封じ込むのか

高まる中国の影響力を、いかに封じ込むのか

ミッドウェー海戦の敗北以降、我が日本軍は次第に劣勢に立たされていきました。

対する米軍は、ミッドウェー海戦の勝利によって戦力的にも心理的にも自分たちが優位にあることを確信したにちがいない。

その証拠に米軍は、ミッドウェー海戦の2か月後には南太平洋で大規模な反攻作戦にでています。

当時、日本が占領していた地域の最西南端はガダルカナル島でしたが、日本軍はここに飛行場を建設中でした。

もしもここに日本軍の航空隊が配置されれば、米国とオーストラリア間の航路が分断される恐れがあったがゆえの反攻作戦でした。

ガダルカナル島の攻防をめぐって日米両軍は、昭和17年8月8日〜9日(第一次)、そして8月24日(第二次)、その後11月12日〜14日(第三次)と3度にわたって海で激突しています。

世にいう「ソロモン海戦」です。

その意味で、ソロモン諸島は日米戦争における地政学的要衝でした。

当時のフランクリン・ルーズベルト米大統領も、太平洋に散らばる無数の小さな島を指して「ほとんど地図では小さな点にしかみえないが、これらは広大な戦略的地域に位置している」と評しているほどです。

この広大な戦略的海域が「大東亜戦争」の戦闘と勝敗のカギをにぎったわけですが、終戦後は米国の戦略や政策の焦点はもっぱら他の地域に向けられ、その戦略的価値は長らく低下していました。

しかしながらここにきて、再び重視せざるを得ない状況になっています。

なんと、ことしの4月、ソロモン諸島が「中国との安全保障協定を締結した」と発表したのです。

協定は、ソロモン諸島が「社会秩序を維持したい」と要請した場合、中国が警察や軍隊を派遣できるというものです。

即ち実質的には、中国がソロモン諸島の内乱鎮圧に乗り出すことが可能になったわけです。

中国の王毅外相は同様の協定を結ぶため、ソロモン諸島以外の太平洋の島嶼国にも訪問しています。

むろんこうした協定は中国軍の太平洋地域での影響圏を拡大し、海上交通の要衝へのアクセス権を与えることになります。

それでも中国は「ソロモン諸島にもこの地域のどこにも軍事基地を設けるつもりはない」とアナウンスしていますが、そうした発言と中国の行動と野心とが一致しないことは既に歴史が証明しているところです。

津軽海峡を内海とせず、平然と中国軍艦に航行を許しているほどの日本ですから、南太平洋のことなど気にもとめてない国会議員がほとんどなのでしょうが、もしもこの地域に中国の軍事プレゼンスが確立されてしまえば「中国がもつ複数の戦略目標が一気に現実味を帯びることになるだろう…」と言われています。

戦略目標とは、例えばシーレーンが確保されることのみならず、米国とその同盟国の軍事に関する情報収集能力を強化することも可能でしょうし、オーストラリアとニュージーランドの封じ込めにも役立ちます。

なによりも米国がこの地域に軍事力を投入するのを困難にさせることができます。

さて、昨年6月、米国の衛星画像によって、中国がゴビ砂漠周辺に120の大陸間弾道ミサイル(ICBM)のサイロを建設していることが明らかになりました。

その数週間後にはウイグル自治区においても110のミサイルサイロが建設中であることが判明し、他にもサイロの拡大計画があることから、中国が核戦略を大幅に見直していることがわかります。

このペースで整備されていくと、2030年までに現在の4倍に近い1000発以上の核弾頭を保有することになるらしい。

だとすれば、米国、ロシアを除けば、他の核保有国を圧倒的に上回る核戦力をもつことになります。

世界はこれまでのような「核大国による2極支配」から、まもなく「核大国による3極支配」の時代へと変わることになるわけです。

そんな中国が、ソロモン諸島との協定を皮切りに南太平洋全域において軍事プレゼンスを確立しようとしています。

日本はもちろん米国とその同盟プログラムは、これにどう対処するのでしょうか。

まずは、当該地域への従来の軍事外交上のアプローチとエンゲージメントを早急に見直す必要があるでしょう。