食糧危機に我が国はどう立ち向かうのか

食糧危機に我が国はどう立ち向かうのか

ロシアによるウクライナ侵攻から既に100日が過ぎました。

この戦争の影響によって、今後、世界的な規模での深刻な食糧不足や食料価格の高騰が懸念されています。

皮肉にも戦争当事者であるロシアとウクライナは世界有数の穀物輸出国であり、ウクライナでの戦闘が続いていることから、黒海を通過する穀物の輸出ルートが遮断されています。

戦争によって今春の作付けも滞ったため、夏以降の収穫にも大きな影響がでる見通しです。

加えて、ロシアが輸出制限を行っていることが大きい。

6月8日、トルコの仲介により双方の外相が協議したものの、明確な打開策を見出すことはできませんでした。

日本の政治家らやメディアは意外にも呑気なのですが、世界は食糧危機に怯えています。

国連のグテーレス事務総長も「このままでは世界的な食糧不足に陥り、飢餓や飢饉が何年も続くおそれがある」と、強く危機感を示しています。

上のグラフのとおり、FAO(国連食糧農業機関)は穀物、植物油、乳製品など主な食料品の国際取引価格をもとに割り出した「食糧価格指数」を毎月発表しています。

ご覧のとおり、ロシアによるウクライナ侵攻後、指数は急激に上昇しており、3月は159.7となり過去最高を記録し、4月も5月もほぼ同じ水準で高止まりしています。

注目しなければならないのは、戦争がはじまる以前(2020年の半ば)から既に食料価格が上昇していたことです。

その原因は、新型コロナの感染拡大で世界的に生産と流通が滞ったこと、小麦の輸出大国である米国とカナダで熱波による天候不順が起こったことです。

そこへもってきて、追い打ちをかけるようにして世界有数の穀倉地帯で戦争がはじまってしまったのです。

1年前の同じ月と比較すると、およそ30ポイントも上昇しています。

世界の小麦輸出量はロシアが21%を占め世界第1位、次いでウクライナが9%を占め第2位、この2カ国で世界の小麦輸出量の3割を占めているのですから当然でしょう。

なお、ロシアのプーチン大統領による外交上の駆け引きが問題を複雑にしています。

ロシアはこれまでも自国への供給を優先させるため、小麦などの輸出を制限してきたうえ、各国を友好国と非友好国に分類して食糧を交渉カードに使おうとしています。

現在、特に問題になっているのが、黒海を臨むウクライナ南部の都市、ミコライウ、オデーサなどの港です。

ウクライナが小麦などの穀物を世界に輸出してきたのは、ほとんどがこれらの港からの海上輸送でした。

ロシア軍が沖合に艦船を配備し港(黒海)を事実上封鎖したため、2月24日以降、ウクライナは船舶で輸出できなくなりました。

既に港の倉庫には、2,200〜2,500万トンの穀物が留め置かれているらしい。

これは、日本での小麦の消費量4年分に相当します。

ロシアが海上を封鎖し輸出を妨害していることについて、ウクライナと欧米諸国は批難を表明していますが、プーチン大統領はこれを否定しています。

プーチン大統領は「ロシアは安全な航路を確保し、船の安全な入港を保証している」と述べたうえで、「欧米は食糧の問題についてロシアに責任を負わせようとしている」と逆に批判しています。

しかしその一方で、プーチン大統領はフランスやドイツとの電話での首脳会談で、ウクライナからの穀物輸出を再開させるのと引き換えに経済制裁を解除することを要求しており、食糧を欧米から譲歩を引き出すための交渉カードにしていることは明らかです。

プーチン大統領は、これまで使ってきた「燃料」というカードと合わせて、「食糧」についても戦略物資として交渉カードに使う構えのようです。

その結果、もっとも打撃を受けているのは対立する欧米諸国ではなく、食糧を自給できずに貧困や紛争に苦しんできたアフリカの国々です。

とくにスーダン、南スーダン、エチオピア、ソマリアなどが深刻な食糧不足に直面しているらしい。

アフリカ諸国は自国で消費する小麦の多くをウクライナやロシアからの輸入に頼ってきました。

ここ数年、洪水や旱魃、バッタの大発生、新型コロナなどの影響で食料価格が高騰していたところにウクライナ危機が追い打ちをかけました。

小麦で作るパンの価格が一気に5割も上昇した地域もあるという。

WFP(国連世界食糧計画)は、今年、アフリカ全体で食糧不足に見舞われる人々が4,000万人を超える恐れがあるとみています。

こうしたなか、AU(アフリカ連合)の議長国であるセネガルのサル大統領が6月3日にロシアを訪れ、プーチン大統領と会談しています。

サル大統領は「アフリカ諸国はウクライナから離れているが、食糧危機で最も多く犠牲を出している。欧米諸国によるロシアへの制裁も状況を悪化させている」と述べるとともに「ウクライナとの間で停戦を実現し、食糧がアフリカ諸国に十分に届くようにしてほしい…」と訴えました。

これを受けプーチン大統領は食糧危機の問題については直接的に言及しなかったようですが、かつて欧米諸国がアフリカで行った植民地支配を批判しつつ、アフリカ諸国を支援してきたロシアの立場を強調しました。

AU議長の訪問を受け入れたのは、ロシアが国際的に孤立していない、という姿を内外に示す狙いもあったのでしょう。

欧米諸国はウクライナで生産された穀物を鉄道を使って陸上からポーランド、ルーマニア、ブルガリアなどの近隣諸国に輸送し、そこから船で輸出する計画を立てていますが、穀物輸出のインフラは海上輸送に集中しているうえ、陸上輸送には限界がありますので、そう簡単にはうまくいかないでしょう。

輸送できる量は鉄道と船ではまったく比較にならない。

食料自給率の点において、我が国は他人事ではありません。

日本の穀物輸入は米国、カナダ、オーストラリアのアングロサクソン国に握られています。

世界的な食糧不足になれば、彼らが日本に優先的に輸出してくれる保証などありません。

これまでグローバリズムにどっぷりと浸かってきたしわ寄せが、食料価格の高騰や食糧不足となって私たち日本国民に襲いかかります。