コストプッシュインフレはデフレ化要因

コストプッシュインフレはデフレ化要因

私の長年の行きつけである地元のお好み焼き屋さんが、20年ぶりに値上げすることになりました。

すべての商品を対象に100円の値上げだそうです。

お好み焼きに使われる「小麦」だけでなく、市場で購入する仕入品のほとんどが値上がりしているので、どうしても価格に転嫁せざるを得ないという。

1998年以降のデフレ経済によって「値上げ」という発想を喪失していた日本経済ですが、コロナ禍にともなう供給制約に加え、ウクライナ危機がコストプッシュインフレに拍車をかけていることで、今後は価格転嫁という形での値上げに追い込まれる事業者が増えていくことでしょう。

さて、輸入物価上昇によるコストプッシュインフレの場合、我たち日本国民が支払った追加的な貨幣は外国の生産者の元にわたってしまいます。

GDP(所得)に加算されるのは純輸出(輸出ー輸入)であり、輸入付加価値に費やされた支出分は日本国民の所得にはならないのです。

要するに、日本国民は所得が増えたわけではないのに支出のみが増えるわけです。

これ即ち、実質的な可処分所得の減少です。

可処分所得が減った日本国民は財布の紐を引き締めせざるを得ないので、コストプッシュインフレは決定的にデフレ化要因となります。

その証拠に日本銀行も国会答弁で「資源・穀物価格の上昇は短期的にはエネルギー・食料品を中心に物価の押し上げ要因となる一方、家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて国内需要の下押し要因となる」と述べています。

巷には「多くの商品が値上がりしているから日本はデフレを脱却した」と誤解している人がいますが、依然として日本経済はデフレです。

緊縮財政派もまた「物価が上昇しているから政府は支出を引き締めるべきだ…」などと悪質な喧伝を行っていますが、騙されてはならない。

むろん、政府支出の拡大は一時的にインフレ率を引き上げることになりますが、その支出が供給能力の引き上げにむかえば、インフレ率が長期にわたって上昇していくことはありません。

1973年のオイルショックの際、その翌年のインフレ率は20%を超え、日本経済はインフレ率と失業率がともに上昇するスタグフレーション(インフレ的不況)に陥りました。

しかしその後、省エネ技術の開発と生産性向上にむけた果敢なる投資(支出拡大)によって、スタグフレーションを克服したのでございます。

そのため、1979年の第二次オイルショックにおいてもインフレ率が跳ね上がることもありませんでした。

高度成長を実現した池田内閣のブレーンとして活躍した下村治は、次のように述べています。

「コストプッシュインフレを克服するためには緊縮財政ではなく、積極財政による生産力の強化が必要だ」

くりかえしますが、積極財政はインフラや生産設備などの供給能力が完成するまでの間は投資需要を拡大するのでインフレ要因となります。

そうしたインフレリスクを回避したければ、デフレや低インフレであった時期に(ながらく日本はそうだった)、財政支出を拡大してインフラ整備等をやっておけばよかったのです。

残念ながら我が国はそれを怠ってきたのですから、一時的な高インフレリスクを私たちは甘んじて享受しなければならないと思います。

コストプッシュインフレ対策は供給能力の拡大以外になく、供給能力の拡大は「投資」なくして不可能です。