中小企業は資金繰りの正念場

中小企業は資金繰りの正念場

ことし、多くの中小企業が資金繰りの正念場を迎えます。

よく言われているように、日本にはおよそ420万社の企業が存在していますが、その99.7%は中小企業が占め、就業人口の約7割は中小企業で従事しています。

東京商工リサーチによれば、ことし2月の時点で「過剰債務を抱えている」と答えた中小企業は34.7%にも及び、借金にあえでいる中小企業が増えているのが現状です。

ただ、2021年度の中小企業の倒産件数は5,979件で、一年前と比べて16.5%も減少するなど、1964年以来57年ぶりの低水準となりました。

その最大の要因は、コロナ対応による政府や自治体を通じた「時短協力金」「持続化給付金」「事業復活支援金」などの、いわゆる「返さなくてもいいおカネ」を調達できたこと、あるいは民間や政府系金融機関を通じて最長で3年間、実質、無利子・無担保でおカネを借り入れられる「ゼロゼロ融資」があったからだと推察します。

帝国データバンクによると、中小企業の57.5%がこの「ゼロゼロ融資」を受けている、とのことです。

即ち、多くの中小企業が「いま、ここを耐えきることができれば、やがて平常が戻り仕事が増え借金を返済することができる」と考え、こうした支援で経営や雇用をなんとか支えてきたのです。

ところがコロナの影響は長期化し、ゼロゼロ融資の額は去年の年末時点で55兆円に膨らんでいるらしい。

無利子・無担保でも借金は借金です。

今後、返済が本格化します。

世界的な長期停滞とコロナ・パンデミックによって供給能力が毀損されサプライチェーンが滞ってしまったことを受けて、エネルギー、原材料、穀物の国際的な価格が上昇しはじめていたなか、ロシアによるウクライナ侵攻がそれに追い打ちをかけ、中小企業の仕入れコストを益々もって増加させています。

日本商工会議所によると、「ビジネスの先行きに大いに懸念をもつ」中小企業の割合は今年3月時点で93%に達しているとのことです。

こうしたなか、まん延防止等重点措置がすべての地域で解除され、営業時間短縮への協力金などがなくなります。

一方、事業の本格的な再開にむけて仕入などのために新たな運転資金を借りようとしても、金融機関から「まず借金を先に返して下さい」と言われ、融資を断られるケースが増えています。

ゼロゼロ融資を受けたあと倒産した中小企業の数は、ことし3月にはじめて30件を超えるなど加速する兆しが見えており、このままでは倒産に追い込まれる中小企業が急増する懸念が指摘されています。

そうなれば失業率の急増、不況の深刻化は避けられません。

こうした懸念を受け、金融業界や中小企業団体のほか、弁護士や公認会計士らの代表などが集まり、さらには金融庁や中小企業庁がオブザーバーとなって、『事業再生ガイドライン』という中小企業を支援するための新たな仕組みがつくられました。

このなかでは倒産などの法的な整理とは異なり、中小企業と金融機関の話し合いで「借金返済の猶予や減額」あるいは「支払いの免除」などに柔軟に応じる手続きが盛り込まれており、4月15日からその適応が開始されています。

これまでも大企業を想定したこの種のガイドラインはありましたが、中小企業むけに要件を緩和することで利用しやすくし、機動的に再生を後押ししようというのが狙いのようです。

中身をみますと、まず対象となる中小企業は売上が減ったり、過剰な借金を抱えたりして自力での再生が難しいという中小企業です。

次いで特徴は2点ほどあります。

一点目は、専門家による支援を受けられるということ。

企業が借金の減免などを受けるには「事業再生計画」をつくり、おカネを借りている全ての金融機関から同意を得る必要があります。

その計画をつくる際に、弁護士や公認会計士、経営コンサルタントなどの専門家の支援を受けることが可能となります。

加えて、中立、公平、公正な立場から専門家が計画の実現性、即ち再生の可能性について評価してくれることで、金融機関側が同意しやすい環境をつくる仕組みが盛り込まれています。

専門家に支払う費用の一部は国が補助するという。

二点目は、支援を受ける際の要件の緩和です。

例えば経営責任のとり方について大企業には求められていた「トップの退任」ではなく「報酬の減額」などでも求められ、債務超過を解消するまでの期限も大企業の「3年」から「5年」に伸ばし、事業の再生により長い期間を充てられるようにするなど、中小企業が利用しやすい内容になっています。

コロナの影響で一時的に売上が減って危機に直面している企業がこのガイドラインを利用して借金の重荷を減らすことができれば、企業にとっては倒産などの場合と異なり取引先に迷惑をかけることもなく雇用を守ることもでき、公表されないため信用力が低下するリスクも少なく、新たな融資が受けやすくなり再生の可能性が高まるとされています。

一方、金融機関にとっても連鎖倒産などを防ぎ、地域経済の活性化につながれば貸出が増えるというメリットも期待できるというわけですが、むろんそう簡単にはいかないでしょう。

このガイドラインには大きな欠点も内包されています。

金融機関が計画に同意しない場合には(えてしてそういうケースが多い)、新たな合理的な理由が必要になります。

このガイドラインには法的な拘束力もありませんし、例え専門家のサポートを得たとしても金融機関を納得させる事業スキームを策定するのはそう簡単なことではありません。

詰まるところ、企業にとっては大きな需要が見込めるかどうかがポイントになります。

要するに「今後、わが社にはまちがいなくこれだけの仕事(受注)が約束されています。だから安心して運転資金を貸して下さい」となれば、そもそもこのようなガイドラインがなくとも金融機関は必ず融資してくれるはずです。

つまり、政府支出の拡大による需要創造(デフレ克服)こそが、最大の中小企業支援です。

政府はなんとしてでも、信用サイクル(金融機関の貸出態度)の安定を維持しつつ、需要を創造するための政府支出の拡大(財政赤字の拡大)を断行しなければならない。